地蔵茶屋跡の休憩所で一休み。
エネルギー補給用の行動食とアミノ酸飲料で体力を回復させる。
今回の旅では、アミノ酸飲料なるものを初めて買って、毎日これを飲みながら歩いているのだけれど、果たしてどれくらい効果が出ているのかは全く実感できない。
初めて歩くような場所で、初めて飲むのだから、その効果など分かるわけがないのである。
冷たい川の水で顔を洗った方が、確実に体の中に力がみなぎってくるのが実感できる。
リフレッシュしたところで、舗装された道を再び歩き始める。
その先で、古道のルートを示す標識は川の対岸方向を指していた。
ところが川に架かる橋には通行止めの看板がひもで吊るされていた。
ここからは、宿で聞いていたように林道を迂回しなければならないようだ。
しょうがなく、緩い上り坂の舗装された林道を黙々と登っていると、川を挟んだ対岸に古道らしき道が見え隠れしている。
こちらの林道の方が歩きやすいのは確かだけれど、せっかくここまで来て目の前の古道を歩けないのが何とも残念でしょうがない。
熊野古道を歩き始めたばかりの初日、直ぐ隣りの舗装道路を眺めながら「何でわざわざ、こんな歩きづらい道の方を歩かなければならないんだろう?」と感じていたのは大違いである。
対岸の古道は、確かに倒木が所々にあるみたいだけれど、決して歩けないような状況には見えない。
「通行止めの看板など、気にしないで歩けば良かったかな」
そんな思いも浮かんできたけれど、それも直ぐに消し飛んでしまうような光景がその先で待っていた。
急斜面に続いている古道の階段が、途中からすっぽりと消え去ってしまっている様子が対岸から確認できたのである。
斜面の上の方で倒れた杉が、そのまま雪崩のように周りの木々を巻き込んで滑り落ち、古道が通っている付近の斜面をごっそりとそぎ落としていた。
台風の翌日に40人も大雲取越えを降りてきたと宿の人が話していたけれど、この付近は多分こちらの林道を歩いていたのだろう。
その様子からは、この部分の古道を歩けるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだと思われる。
そのおかげでやっと諦めがついて、林道沿いの風景を楽しみながら歩くことにした。
山肌のいたる所から水が流れ落ちてきて、舗装道路の下を通って、川へと流れ込んでいる。
「何で舗装道路が濡れているんだろう?」と思ったら、歩道道路の真ん中から水が湧き出していた。熊野の山々が蓄えている水の豊富さを実感させられる。
林道を歩いている途中で奇妙なことに気が付いた。
林道沿いの所々に、大きな卵形の石が転がっているのだ。 どうしてこんなところに石があるのか、最初は疑問に感じたけれど、その発生源は直ぐに見つかった。
林道沿いに土が剥き出しになった斜面があって、その斜面のあちこちから丸い石がぽっこりと顔を出しているのである。
何年もその状態を保っているようなところもあれば、台風の時に新たに発生したと思われる崖崩れの跡でも、その下から新たな卵石が現れているところもある。
要はこの付近の山の中全てに、同じような卵石が埋もれていることになるのだろう。
付近の地質は、ほとんどが火山灰だと思われる。
そんな厚い火山灰の地層の中に、何で巨大な丸い石が幾つも含まれているのか、どう考えても理解できない。
それほど堅い石ではなく、表面が風化して、ゆで卵の殻が剥けかけた様になっているものも多い。
私達はこの玉石を「熊野の卵石(那智の卵石)」と名付けることにした。 |