ただ、後ろでカヌーを操作している私は結構大変だった。
核心部は思っていた以上に長く、ようやく終わったと思ってもすぐに次の瀬が現れる。
次第に腕に力が入らなくなってきた。
何度かヒヤッとすることもあったけれど、ようやく核心部を抜け出せたようだ。
そこで一旦、岸に上陸する。
皆の顔には充実した笑みが浮かんでいた。
懲りない面々も、鵡川の瀬を思う存分楽しめたようである。
次第に雲が厚くなり、気温も下がってきたようだ。
休んでいたら体が冷えてしまうので、直ぐにまた漕ぎ始める。
向かい風が強くなってきたけれど、今日はタンデムなのでそれも大して気にならない。
前回は、ゴール近くに岩が積み重なったような落ち込みが有り、カナディアンでは下ることができず岩に乗り上げてしまった。
「そろそろその場所が現れる頃かな」と思って緊張しながら下っていくと、そこでは前回カヌーで乗り上げた場所をかわせるような流れができていて、問題なく下ることができた。
鵡川のこの区間では、水量次第で川の様子はがらりと変わり、以前に下った時の情報など大して役に立たないのである。
その良い例が最後に待ち構えていた。
ゴールの手前には福山大橋からも見える瀬があったはずである。
カヤックのメンバーはそこで最後のサーフィンでも楽しむのだろう。
国道を走る車が見えてくると、その瀬も間近である。
先頭を下っていたカヤックが突然その姿を消して、しばらくしてからその姿が下流に現れた。
結構な落差があるようだ。
近付いていくと、その瀬にかなりの白波が立っているのが見えてきた。
そこでK岡さんのカヤックが沈。直ぐにロールで起き上るだろうと思って見ていたら、何度か上がりかけたもののその度に白波に飲み込まれてしまう。
そしてついに沈脱。
「かみそりロールがへたれロールに!」
これは川下り日記のネタになりそうだなと思いながら下っていくと、O橋さんのOC-1までがひっくり返ってしまった
2艇も沈するなんて普通の瀬ではないことだけは確かである。慌てて進路を変更した。
その瀬は2段になって落ちていて、右岸寄りがヒーローコース。左岸に寄れば1段目の落ち込みを避けることができる。二人の沈さえ無ければ、当然の様にヒーローコースを下るつもりだったけれど、まずは1段目を左にかわす。2段目の落ち込みももっと左に寄ろうとしたけれど、流れに引き寄せられ落差の大きい場所に入ってしまう。
そこを落ちた瞬間、カヌーの底が何かにぶつかり「バキッ」と音が聞こえた。カヌーはあっという間に水舟になり、そのままズルズルと後ろに引き込まれる。
「漕いでっ!」
慌ててかみさんに声をかけて、そこから抜け出す。
その先では、舟を失ったO橋さんが一人寂しく、蛇籠の護岸の上に座り込んでいた。
こちらも水舟状態で、岸にたどり着くのが精一杯なので、そんなO橋さんを見捨てて対岸へとカヌーを漕ぎ進める。
残されたO橋さんはどうなるのだろうと心配になって後ろを振り返ると、既にO橋さんは対岸に向かって一人で黙々と泳いでいるところだった。
そこまで全員何事もなく下ってきたのに、最後の最後で思わぬ落とし穴が待っていたのだ。
それにしても皆の喜びようと言ったらなかった。
他人の沈をこれ程までに喜んで良いのだろうかと思えるほどに、皆、満面の笑顔である。
でも、沈した二人もとっても嬉しそうに見える。
聞くところによると、チキンルートに逃げた人も多かったようで、果敢にヒーローコースを下って豪快な沈を披露したお二人はパドラーの鏡と言えるだろう。
我が家のカナディアンは、岩にぶつけた拍子でまたしてもシートが壊れてしまっていた。
これだって、真っ直ぐにヒーローコースを下っていれば、そんな隠れ岩にぶつかることも無かったはずである。
こうして楽しくてスリリングな鵡川の川下りは終了。
これで今年は心置きなくカヌーを片付けることが出来そうだ。
でも、その前に壊れたシートを補修しなくては・・・。
2011年10月30日 曇り時々晴れ
当日12:00 鵡川水位(福山観測所) 168.75m |