途中の壊れた堰堤は、わざわざチャレンジするような事はしないで、全員でポーテージ。
そしていよいよ最大の核心部「大岩の瀬」へと下ってきた。
その手前で全員が左岸に上陸する。2年前の時は流れに押されて上陸することができず、そのまま大岩へ向かって流されていったのだ。
岸に上がれただけでホッとするのは、北海道の川の中でもここだけである。
まずは瀬の下見。この瀬こそは、下るルートを十分に見極めなければならない。
大岩の方へ向かう流れを下ることは全く考慮されず、岸寄りの分流のどこを下るかで頭を悩ませる。
いやらしい場所に岩も絡んで、難易度はこの前の「擁壁の瀬」よりも確実に高そうだ。
ここでも、手前の岸寄りの部分が波が小さく、比較的チキンルートになっている。
でも、私にはその向こう側に漕ぎ下れるルートがはっきりと見えていた。
例によってG藤さんが真っ先に下ってきた。
そして、私が思い描いていた通りのルートを全く危なげ無く漕ぎ抜けていく。
その後に続いてベテランメンバーが颯爽と下っていく。
そこに登場したK岡さん。
今度こそと期待しながら見守っていると、またしても忠実に岸寄りのチキンルート下ってくるK岡さん。
まるで「皆さん、ここがチキンルートになっていますから、僕の下った通りに付いてきて下さい」と言わんばかりの下り方である。
唖然として見送っていると、最後の岩に引っ掛かって沈までしている。
でも、ここからがK岡さんの本領発揮。まるでカミソリのような切れ味でスパッと起き上ってきたのだ。
以前に、2度目、3度目のロールでやっと起き上るK岡さんに「へたれロール」などと失礼なことを言ったものだから、本人はそれをいたく気にされていたらしい。
多分、陰で血の滲むような努力を重ね、ついに完成した奥義「かみそりロール」を目の前で見せてもらい、私もとても嬉しかった。(大岩の瀬を下る皆さんの動画)
皆さんのそんな勇姿を見せてもらってから自分のカヌーへと戻る。
瀬を一目見ただけで下る気を無くしていたかみさんは、いつの間にか姿をくらましてしまった。
下るルートは見極めたつもりだけれど、緊張感が高まり口の中がカラカラに乾いてくる。
久しぶりに味わう緊張感だ。
それ以上緊張感に耐えることができず、O橋さん、228君に断って先に下らせてもらうことにする。
狙った通りの場所から瀬に突入し、その全貌が一目で見渡せた時、自分の下るべきルートが一筋の線となってホワイトウォーターのキャンバスにくっきりと浮かび上がった。
そこを颯爽と下り始めて間もなく、横からの意地悪な波が私のカヌーを軽く小突いてきた。
それに抵抗することさえできずに、カヌーは簡単に向きを変えて岩に乗り上げてしまう。
そして後ろ向きのまま瀬を下ることに。でも、後ろ向きの方が恐怖感が無くなり楽に瀬を下れるのだ。
ちょっと格好悪かったけれど無事に大岩の瀬をクリアした。
こうして川下りで瀬を越える度に、私の心の中には貯金が貯まってくる。
ヒーローコースで瀬をクリアしたら、一気に貯金も増える。
そしてその貯まった貯金で月曜日から始まる一週間を幸せな気持ちで過ごせるのだ。
川によっては貯金が少なくて火曜日までにそれを使い果たしてしまうこともあるけれど、鵡川での貯金は金曜日まで十分に持ちそうである。
でも、この心の貯金には上限額があって、大岩の瀬をクリアしたところで既に限度額に達してしまった。
直ぐ次に現れた岩だらけの瀬。
下手をしたらここで貯金を吐き出してしまうことにもなりかねない。
かみさんのパドリングも力強さを失い、目の前に迫っている岩を除けようともしない。
「これはちょっとまずいぞ」と思っていたところに大きな岩が現れた。
余裕を持って避けられるだろうと思っていたら、急にカヌーがその岩に向かって引き寄せられていく。
おまけにその岩の横には倒木まで用意されていた。
「まさかここで最悪の事態に陥るとは」と頭の中が真っ白になった時、倒木にかすりながらも、岩から跳ね返ってくる波に押されて無事にそこをすり抜けることができた。
その後も必死になって岩をかわしながら、ようやくそこを脱出する。(岩だらけの瀬の動画)
ホッとして後ろを振り返ると、瀬の出口の岩に横向きになって228君のカヌーが張り付くところだった。
「あ〜あ、気の毒に」と思って見ていると、カヌーが上流側に向いて岩に張り付いたまま、228君の姿が何時まで経っても現れない。
もしかしたら岩とカヌーの間に挟まって抜け出せなくなっているのかもしれない。
その状態で波を被っていれば、最悪の事態も考えられる。
他のメンバーもそう思ったようで、近くにいた人が慌ててカヤックを下りて、228君のところに駆け付ける。
そこでようやく228君が立ち上がるのが見えてホッとさせられた。
こんな川を下る時は事故の可能性はあらゆる場所に潜んでいるので決して気を抜くことはできないのである。
車を回してある場所までもう少しのはずなのに、まだまだ瀬が続く。
川岸に不思議な建物が建っていた。
近くを通っているはずの道道からはかなり外れて、しかも川に面して建てられているのだから、何か川に関連する建物だったと思われる。
川の中にはコンクリートの基礎も残されており、廃墟マニアとしては非常に興味を惹かれるところなので、次にここを下る機会があれば是非上陸してその内部を探ってみたいものだ。
その後は大きなウェーブの立っている瀬を見つけてカヤックのメンバーが遊び始めた。
カナディアン組は皆、既に体力を使い果たしていて、それをただ眺めているだけだ。
結局カヤック組は20分くらいそこで遊んでいただろうか。
後はサッサとゴールを目指そうと思ったら、最後にまたパチンコ岩の瀬が現れ、本当に最後の最後まで気の抜けない鵡川である。
以前にO橋さんが「自分の実力からすると少し無理気味かなぁーってあたりが一番面白い」と言っていたけれど、今回の鵡川はまさにその通りの面白さだったと言えるだろう。 |