途中の川原で一度目の休憩を取ることになった。
去年の川下りキャンプで我が家がテントを張った思い出の場所である。
先に上陸したメンバーが何やら騒いでいた。砂の上に熊の足跡が残っていたのだ。
比較的新しい足跡で子熊と思われる足跡も混ざっている。
歴舟川のこの付近は周りが畑になっているはずで、熊などいるわけないと思い込んでいたけれど、やっぱり油断はできない。
我が家がここにテントを張ったときは鹿しか現れなかったけれど、以前に鵡川の川原でキャンプした時も朝目覚めると近くに真新しい熊の糞が残されていたし、北海道の川原キャンプでは熊対策が必須である。
休憩を終わって再びカヌーを浮かべる。
それにしても素晴らしい水の透明度だ。
昨日下った上流のヌビナイ川よりも水が澄んでいる気がする。
天気が良いので、川底の石までが太陽に照らされ、余計に澄んで見えるのかもしれない。
絶好の川下り日和である。
歴舟川は広い川原の中を右へ左へと流れを変え、その流れが変わるところが全て瀬になっている。
今回は例会初参加のS君がカナディアンのソロで参加していた。
歴舟川は初心者でも何とか下れる川とされているけれど、瀬の中には結構大きな波の立つようなところもある。
これまでの川下り経験は美々川と釧路川だけだと言うS君が果たして無事に下れるのか、ちょっと心配していたけれど、そんな心配は全く無用だった。
波に翻弄されながらも楽しそうに下っている。やっぱりカナディアンは、そう簡単にひっくり返るようにはできていないのだ。
I上さんが連れてきた若者も初心者のようで、ちょっと危なっかしいながらも、何とかタンデムでカナディアンを乗りこなしている。
左岸側の三つ目の土壁を過ぎた先に大きな波の立つ瀬が去年はあったけれど、今年はそこはおとなしい瀬に変わっていた。
歴舟川の場合、一度大増水すると川の様子がガラッと変わってしまうこともあり、一年前の記憶などほとんど役に立たない。
ただ、去年から今年にかけての歴舟川はマイナーチェンジしただけで、川の流れまで変わっているところは無さそうだ。
土壁ならぬ巨大なコンクリート壁が見えてくると、もう少しで市街地である。
昔はその手前に堰のような障害物があったのだけれど、現在はそれも全て埋ってしまって普通のザラ瀬になっている。
ザラ瀬を下ってコンクリート壁に流れがぶつかる手前にテトラが一つ転がっている。
この辺りは川幅も広いので、そのテトラの右でも左でも余裕をもってかわせるので、大した問題はない。
と思っていたら、若者二人の乗るカナディアンがわざわざそのテトラにぶつかって沈してしまった。
慣れないうちはどうしても行きたくない場所に行ってしまうのものである。
その先にはテトラのストレーナーがあるので、流れが速いときならかなり危険な場所なのだけれど、水が少なければ瀞場になっているので、沈して流されてもそれほど心配はない。
ただ、ジャージ姿で下っていたので、ずぶ濡れになってちょっと気の毒である。
市街地の手前にもう一箇所の難所がある。
大きな波の出来る落ち込み、カヌーが思いっきり煽られて一瞬ヒヤッとする。
河口までの区間でここの波が一番大きかった。
そしてその先で待ち構えるテトラ、それをギリギリで右へかわす。
ここを初心者が下るのは無理だろうと、直ぐにレスキューロープを用意してカヌーを降りる。
すると、最初の落ち込みで初心者タンデム艇がひっくり返るのが見えたので、慌てて川原を走った。
ツアーリーダーのI田さんが既にロープを投げていて、流された若者はそれにつかまろうと一生懸命に手を伸ばしている。
ロープに手が届かなければ、生身のままテトラに向かって流されることになる。
もしもの時に備えて、私もレスキューロープを投じた。
しかし、そのロープは3m先でポチャンと水音を立てて川に落ちてしまったのである。慌てていたので、袋の口を緩めないままで投げてしまったのだ。
それに、ロープを投げる前の相手とのコンタクトもとっていないし、全くお粗末としか言いようがない。
でも相手に声をかけてから投げたロープが3mしか飛ばなかったら、流されている方も川の中でずっこけてしまうだろうし、若者は何とか最初のロープにつかまることが出来て事なきを得たので、これで良しとしておこう。
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