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鵡川

(滝の沢信号所付近〜占冠付近)

一週間前の様子 カヌークラブ5月例会初日は鵡川の上流部を下る。
 道東自動車道がトマムまで開通したので、占冠からトマムへの道道占冠落合線を走る機会が増えたけれど、そこを走りながら何時も見ていた川を今回下るのである。
 道路から見える限りではそれほどの急流でもなくて、以前からカヌーで下ってみたいと考えていた場所なので、例会でここを下ることに決まったときはとても嬉しかった。
 ただ、水が少なすぎる時は金山湖ツアーに変更するとの条件付だったので、それだけが心配だった。
 一週間前にちょうどここを通った時はぎりぎりで下れそうな水量で、しかも水も澄み新緑も美しく、これはもう絶対に下らなければと思ったものである。
 その後で雨も降り、例会当日はちょうど良さそうな水量になってくれたようで、ワクワクしながら集合場所の占冠道の駅へと向かった。

道の駅駐車場に集合 集合場所に集まった車は18台。そこから、スタート地点に直接向かうグループと、ゴール地点に車を数台デポしてからスタート地点に向かうグループの二つに分かれて、道の駅を出発した。
 何時ものことだけれど、人数も多いのでこの辺の仕切りが大変である。
 私は一週間前にここを通ったときに一通り下見をしていたので、スタート地点へ向かうグループの先頭を任される。
 下見の時にゴール地点も確認しようとしたけれど、高速道路工事の邪魔になりそうでそこまでたどり着けず、大体の場所しか見当を付けられずに終わっていた。
 ゴール地点へと向かうグループは占冠の市街地を過ぎると直ぐに脇道へと入っていった。
 「あれ?ゴール地点はもっと先だと思ってたのに、変更になったのかな?」
 疑問を感じながらも私はそのままスタート地点へと向かったのだが、これが後の珍事件へと発展するきっかけとなることに、その時は知る由もなかった。

スタート地点 スタート地点は車を停めるスペースも広くてちょうど良い場所だ。
 JRの鉄橋の下をくぐって川へと下りる。
水量が増えた分、水の透明度は先週よりも落ちているけれど、清々しい流れであることに変わりはない。
 GWに下見で下った人の話によると、2箇所ほどちょっとした瀬があるとのことだ。ツアーリーダーからそんな説明を受けた後、川にカヌーを浮かべダウンリバーの開始。
 川に迫る山の斜面が新緑に彩られ、気持ちの良い風景を作り出す。
 蛇行しながら流れる川を下っていると、そんな風景が次々に変化していく。
 周りの森の中からはエゾハルゼミの鳴き声が響いてきて、それが瀬の軽やかな水音と素晴らしいハーモニーを奏でる。
 川岸の岩肌にはサクラソウがひっそりと花を咲かせていたり、所々で群落を作っていたりと、飽きることがない。
 蛇行する度に鉄橋の下を通り抜ける。
 緊張するまでもないような気持ちの良い瀬が次々に現れ、自然と笑みがこぼれてくる。


川の風景
何度も鉄橋の下をくぐる

国道の橋   新緑と瀬
国道の橋が見えてきた   気持ちの良い瀬

 国道に架かる二つの橋の間を大きく蛇行しながら通り過ぎると、その先にツアーリーダーから説明を聞いていた一つ目の瀬が現れた。
 一旦上陸して川の様子を確認する。皆が流れの先の様子が見える場所まで川岸を歩いていったので、私は後ろの土手に登ってみることにした。
 そこから眺めた川の様子に、思わずたじろいでしまう。延々と200m以上も続くホワイトウォーター。同じ鵡川の激流区間である赤岩青巌峡のミニチュア版と言った風情である。

一つ目の瀬
赤岩青巌峡ミニチュア版

 先にベテランメンバーがカヤックでそこを下っていく。彼らはとても簡単そうにそこを下ってしまうので、見ていてもあまり参考にならないのが困ったところだ。
 緊張で口の中をカラカラにしながらカヌーまで戻る。かみさんが泣き言を言い出すかと思ったら、それほど緊張した様子でもない。
 もしかしたら、下から見るよりも私の立っていた高い場所から見下ろしたほうが、より迫力のある流れに見えたのかもしれない。
 いざ下ってみると、意外とあっさりとそこをクリアすることが出来た。
 その後も楽しい流れが続き、途中の川原で昼食タイムとする。

瀬の中を下る   下から見た瀬の様子
波しぶきが心地良い   下流から見た瀬の様子

 川はその先も蛇行を繰り返し、その度に鉄橋や建設途中の高速道路の橋の下をくぐり抜ける。
 地形図を印刷したものをカヌーの浮力体の上に挟んでいたけれど、何度も橋の下を通過しているうちに、現在地を確かめるのも面倒くさくなってきた。
 山肌に咲いている花を見つけては、あれれは何だろうと岸にカヌーを寄せるが、かみさんの視線は花を通り越してあちらこちらへと動き回っている。
 花より山菜。何処かにウドが生えていないか、そればかり探しているようである。
 瀬の中を下りながら途中でパドルを放して写真を撮っていると、その先の端の橋脚の下が倒木で塞がれているのが見えて、慌ててパドルを握りなおして唯一通過できる左側の端を何とか通過する。
 のんびりと下っていると、川が道路の護岸にぶつかって突然川幅が狭まって流れが速くなっているところがあり、おまけにそこを倒木が塞いでいた。頭を下げて何とかその下を潜れたけれど、水がもう少し多ければ危ないところである。
 どんなところでも川下り中は気を抜くことは出来ないのだ。

何探してる?   橋の下を塞ぐ倒木
ウド、生えてないかな〜   橋の下を塞ぐ倒木

 そしてそろそろゴールが近づいてきた頃に最後の瀬が現れた。
 ここも全員で下見をしたけれど、その付近の岩は表面がギザギザに尖っていて、アリーでは絶対に下りたくないようなところである。
 流れはそんな岩にぶつかりながら方向を変え、とてもトリッキーだ。
カヤックは苦労する カヤックは苦労するけれど、大きなカナディアンならば岩にぶつかるけれど沈はしないだろうとのベテランの方のアドバイスである。
 素早いパドル操作が要求されそうで、ここをタンデム下るのはかなり難しいと思っていたら、かみさんがパスしたがっている。
 無理して二人でチャレンジするようなところでもないので、ここは一人で下ることにする。
 カナディアンを二人で乗りこなすのは相当なテクニックを必要とするけれど、それと比べれば一人で乗るのなんて簡単なものである。最近はそんなふうに感じるようになってきた。
 夫婦でカナディアンに乗り続けるのは、敢えて厳しい道を歩いているようなものなのかもしれない。
 ベテランメンバーが下った後に、躊躇しないで直ぐに下ることにする。
 岩を避けながら核心部への落ち込みに突入する。そのまま行ってしまうと正面の岩にぶつかるので、クロスを入れながら方向を変えて、その後は素早くスイープ、クロスと切り替えて、思ったようなルートで下ることができた。
 この瞬間が最高に気持ちよい。
 上手くいったので、カメラを預けていたかみさんに「今の写してくれた?」と聞いたら、「あんまり早く下ってくるから準備できてなかった」
 ガックリである。
 でも、Iさんが連続写真を撮ってくれていたので、家に帰ってから一人でそれを見てはパソコンの前でニヤニヤしていたのである。

連続写真
上手に下れて自己満足

 あとはゴールまで何もない。ベテランメンバーはそこでしばらく遊んでいるみたいなので、フウマを車の中で待たせていることもあり、他のメンバーと一緒に先にゴールまで下ることにした。
 会長が「川が合流しているところがゴールですから」と誰かに言っているのが耳の隅に聞こえていた。私の前にはGWの下見の時にも下っていたYさんもいるので、ゴールが分からなくてもその後に付いていけば問題ない。
 するとそこから直ぐに川の合流地点に到着。
 「あ〜あ、楽しい川下りだったな〜、・・・、あれれ?」
 Yさん達は何事も無いようにそこを通りすぎていってしまった。
 私も一週間前にこの近くまで車で来ていて大体の様子は知っているし、カヌーに乗せてある地図を見ても、クラブの例会案内に載っていたゴール地点はここで間違いないはずだ。
 しかし、チラッとゴール予定地点だったはずの辺りを見ても、そこに停まっているはずの車が確認できない。Yさんが気付くのを待って漕ぐスピードを緩めたけれど、どんどん先へ行ってしまう。
通り過ぎたのも知らずに優雅に下り続ける人達 まだここからなら流れも緩やかなので、漕ぎ上がって戻ることができる。
 「早く気がついてくれ〜!」
 止まりそうな気配もなくどんどんと下っていく。
 まだここからなら水深も浅いので、カヌーを引きずりながら川の中を歩いて戻ることができる。
 「もしかしたら次の橋のところがゴール地点に変わったのかな?」
 この辺りでは、Yさんを含む先頭集団からかなり離れてしまっていた。
 遠くから様子を見ていると、その橋も何の躊躇もなく通り過ぎていく。
 「???」
 既に歩いて戻るのも不可能な距離まで下ってきていた。
 何時も几帳面なYさんが、ゴールを間違えるはずがない。そう言えば、最初にゴール地点へ向かうグループは、私が考えていたよりもかなり市街地寄りの場所から曲がっていった。
 直接スタート地点へと向かった私なので、下見の時に下って、今日もゴール地点へ車を置きに行っているYさんを疑うことはできない。
 皆、とても優雅に下っているように見えるのだ。
 「でも、一体ゴールは何処なんだ?」
 左岸の直ぐ近くを道路が通っているのが見えた。もしも本当にゴールを過ぎてしまったとしたら、ここで上陸すれば直ぐに救助してもらうことができる。
 そう思ってもまだ半信半疑なので、ずるずると通り過ぎてしまった。緩やかな流れが遥か下流まで続いているのが見える。
 近くに来たKさんも、さすがに不安になってきたようだ。ホイッスルを吹いて先頭グループに連絡する。するとようやく先頭グループも気がついたらしくそのまま右岸へと上陸した。
 我が家もやっと追いついてそこから川の堤防の上まで登ってみると、畑を挟んだ反対側にJRの占冠駅が見えていた。
ゴール地点を遙かに通り過ぎてしまったことは確かなようである。
白ベンツの王子様 携帯で会長に連絡する。
 「ゴール地点を通り過ぎてしまったみたいで・・・、何処にいるのか分からないけど占冠駅が見えてます」
 「えっ!」絶句している様子が携帯の向こうから伝わってきた。
 果たして国道からここまで車で入ってこられる場所があるのだろうか?もしそれが無理なら、かなり面倒なことになってしまう。
 その時である、国道から白い車がこちらの方に曲がってくるのが見えた。
 良く見るとそれは屋根にカヌー用のキャリアを乗せたベンツである。
 そんなベンツに乗っているのは我がクラブのOさん意外に考えられない。
 白いベンツから降りてきた細身のOさんが白馬に乗って駆け付けた王子様のように見えてしまった。

 結局、ゴール地点から2kmも下っていたようである。
 クラブの例会史上でも初の珍事らしい。
 まあ、こんなおまけも有ったけれど、新緑に包まれてのとても快適な川下りではあった。
 なお、この後も私達の知らないところで色々と事件が起こっていたようだけれど、その詳細はカヌークラブの会報に詳しく書かれているので、ここでは省くことにする。

2008年5月24日晴れ
下った区間の地図はこちら

当日12:00 鵡川水位(鵡川占冠観測所) 330.45m



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