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鵡川

(福山大橋 〜 富内手前)

 カヌークラブのNさんから、川下りの誘いがあった。場所は鵡川のニニウから福山までの区間。
 「おおっ!これは!」
 ニニウキャンプ場に行くときは、鵡川沿いの幅の狭い砂利道を走るのだが、その所々から鵡川の流れを見下ろすことができる。それがまた最高に美しい流れで、何時かこの川をカヌーで下れたら良いなとずっと昔から憧れていた川なのである。
 当然、すぐに参加の返事をした。
 10時に国道274号線沿いの福山駐車場に集合、少し早く着いたので福山大橋から川の様子を眺めてみた。先週もこの付近を通りかかり、車の中からチラッと川の様子を見たのだが、ずいぶん水が少ないな〜という印象だった。
 その時から水量はほとんど変わってないみたいだ。
 橋の真下の浅瀬も、さて何処を通ればカヌーの底をこすらないで通れるんだろう?と迷ってしまうくらいの水量だ。
 今回の参加メンバーはカナディアンのTさん夫婦に、カヤックのNさん夫婦、そして我が家の、どちらかと言えばクラブの新人メンバーが中心である。
 新人と言ってもTさん夫婦とNさん夫婦は、毎週のように川に出かけているので、既にかなり上達しているみたいだ。それでも皆、鵡川を下るのは初めてになる。
 そこへベテランメンバーのTさん、Gさん、Iさんが飛び入りで参加してくれたので、少し心強くなった。
 川の様子を見たTさんは、「こんなに水の少ない鵡川は初めてだ。」とのこと。Gさんは、「この水量なら、ここから下流の方が下りやすいよ。」との話しである。
 「えっ?」
 北海道の川のガイドブックは何冊か発行されているが、どのガイドブックにもニニウ〜福山はそれほど難しくはないが、福山から下流は岩がゴロゴロした難コースと書かれているのだ。
 Gさんの説明によると、「ニニウ〜福山は高低差が大きく、途中の大岩がゴロゴロした区間では沈したらしばらく流されることになる。それに比べて下流の方は高低差も小さく、瀬の後はすぐにトロ場になるので水が少ないときはこちらの方が下りやすいだろう。」とのことである。
 憧れのニニウ〜福山を下れないのは残念だったが、素直にベテランのGさんの意見に従うことにした。
 まずは車を下流に回す。この福山から富内への道は、最近はほとんど通行止めになってばかりだったが今回は幸い開通していた。
 如何にも雨が降ればすぐに通行止めになりそうな険しい道だ。富内手前の、草に覆われた河原へ降りる狭い道に車を停めて、また福山まで戻る。
 その間の距離は12km、川は蛇行しているので、下る距離はもっと長くなるだろう。
 道路から見る鵡川は、水が少ないので岩がゴロゴロしている。果たしてこんな場所をアリーで下れるんだろうか?次第に不安が大きくなってきた。

最初は余裕 そして福山大橋をスタート。橋の下の浅瀬も底をこすらないで通過できた。
 橋下流の穏やかな流れの左カーブを曲がると、すぐに最初の瀬が現れた。波は大きくないけれど、岩が沢山絡んでいるので嫌らしい。
 我が家の前でIさんのOC-1がそんな岩の一つに引っ掛かり沈してしまった。慌ててそれを避けようとしたが、無理すると我が家の方も岩に張り付きそうなので、そのままIさんにぶつかりそうになりながらそこを通過した。
 流れもきつくないし、挨拶代わりの沈かなーと気楽に見ていたら、岩に張り付いたまま上流川に傾いたのでカヌーが折れそうなくらいに曲がっている。
 何とかカヌーを壊さずにそこを逃れることができたようだが、最初からこれでは我が身も心配になってきた。
 その後も同じような瀬が頻繁に現れる。慎重に前方の様子を窺いながら、一つ一つ岩を避けて下っていく。緊張で口の中がカラカラに乾いてくるので、ペットボトルの烏龍茶を飲んで喉を潤す。
 この調子では500mlの烏龍茶がすぐになくなってしまいそうだ。
 最初は川の両側も広々とした感じだったのに、次第に山が迫ってきて渓谷の風景に変わってきた。
 途中で昼食タイム。ここまで岩に張り付くこともなく無事に下って来れたが、まだまだこの区間は序の口だという話しである。

簡単な瀬をクリア やがて前方に橋が見えてきた。
 これでやっと中間付近まで下ってきたことになる。TさんやGさんは、何時もこの橋から下流を下っているのだそうだ。
 と言うことは、この橋から先がTさんやGさんにとって楽しい区間、逆に私たちには恐ろしい区間と言うことになる。
 巨大な崖が直接川の中に崩れてきているような場所もあり、いよいよ鵡川がその本性を見せ始めた感じだ。
 現れる瀬も波が高くなり、その中で待ち受ける岩もでかくなってきた。流れも速いので、瞬時にコース取りを決めないと岩に乗り上げてしまうことになる。
 トロ場から瀬に変わるところでは、傾斜が急なので瀬の入り口にたどり着くまでその先の様子が全く見えない。先を行くベテランメンバーがどのコースを進むかをしっかりと見届けて、瀬に突入したらできる限り同じコースをたどる。
 しかし落ち込みの先にある岩は直前にならないと気がつかないし、とうとうその一つに乗り上げてしまった。
 腹がつかえただけなので、一旦カヌーから降りて岩からカヌーを剥がす。降りると言っても、急流の水の中のツルツル滑る岩の上に乗るのだから、結構恐ろしいものがある。
 何とか再乗艇して、そこを無事にクリア。先が思いやられる。

直角カーブの難所 先を行くメンバーが岸に上陸した。下見を必要とする場所があるみたいだ。
 そこは、流れが真っ直ぐに正面の岩にぶつかりそのまま左に直角に曲がるようなところだった。
 波は大きいが、正面の岩に張り付く恐れもなさそうだし、苦手な隠れ岩もないので、何とかなりそうだ。
 最初に我が家がチャレンジすることにする。
 落ち込みの先で大波が逆巻いているのが見えるが、覚悟を決めてその中に突っ込む。大岩の手前で、かみさんに「ドロー!」と声をかけた。
 カヌーから思いっきり身を乗り出してドローを入れるかみさん。
 「おっ、すげぇ〜、カヌーから落っこちそうじゃん。」
 かみさんの勇姿に感心しながら、こちらはただバランスを取るだけである。
 パドルを入れようにも真横に岩が迫ってきているので、そんなスペースがないのだ。
 寸前で岩をかわして無事にクリア。
 後から下るメンバーを写そうとカメラの準備をしていると、Gさんから「レスキューロープを出して」と声をかけられた。例会の時は、常に誰かが先にレスキューの用意をしてくれていたので、自分でその立場になることは全く気がつかなかった。
 早速レスキューロープを構えて、他のメンバーが下ってくるのを待ち受ける。皆、無事にそこをクリア。
 せっかく他の人をレスキューする初めての体験を楽しみにしていたのに、ちょっとだけ残念だった。
壊れたコンクリートダム そこのすぐ先で、今度はコンクリートのダムが待ちかまえていた。右岸川の隙間を通り抜けて、その下のエディにカヌーを入れる。
そこで小休止。
 私が入っているカヌークラブの創設者である玉田先生が書いた北海道カヌーツーリングブックで、難所として写真入りで紹介されていた場所である。 Gさんの話しでは以前はそこに書いてあるとおりの難所だったらしい。
 川も時間が経てば簡単にその姿を変えてしまい、その辺が川のガイドブックの難しさだろう。

 この付近で既に私の体力はかなり消耗していた。
 10秒チャージのウイダーinゼリーでエネルギー補給したが、先が思いやられる。
 再び前を行くメンバーが岸に上がって下見を始めた。次はどんな場所だ?岩がゴロゴロしていて本流の様子が全く見えない。 岩の上に乗って川の様子を見ていたメンバーが手をクロスさせて、ダメだのポーズ。
 奥様メンバーは、良かった良かったと喜んでいる。それでもNさんの旦那さんがチャレンジするみたいだ。
 私はカメラマン役として、その近くの岩の上に場所を移動する。初めてその場所を見たらなるほどーって感じである。急な瀬を降りたらその正面に、ややアンダーカット気味の大岩、そしてその後も岩の中の落ち込み。広いトロ場があればアリーでも行けそうだが、さすがにこれでは下ることはできない。
 まずはNさんがTさんに先導されて下ってきた。最初の急な瀬を無事に降りたものの、アンダーカットの岩を避けようとして沈。
 次はIさんのOC-1、これも同じくアンダーカットの岩の前で沈してしまった。なかなか手強そうな岩である。
 その後は我が家のカヌーのポーテージ。これが疲れた体にはとても辛かった。どちらかというと軽いカヌーなのだが、底に敷いてあるマットがたっぷりと水を吸っているので、普通のカナディアンよりも重たくなっているかもしれない。
 苦労してカヌーを運んでいると、IさんがOC-1を担いで逆方向に歩いてきた。「えっ!またチャレンジするんですか!」
 そして2度目は見事にクリア。やっぱりこれくらいの根性がないとダメなのである。

偵察中   Iさん格好良い!   この後すぐにリベンジ

 ポーテージで体力を消耗して、ウイダーinゼリーの効果もすぐに消えてしまったみたいだ。
 次の瀬に入ったとき、目の前に岩が現れた。
 「右だ!」
 それなのにかみさんは左へ行こうとする。またいつものパターンだ。
 そこで無理をしたら真横に岩に張り付いてしまうし、もうどうしようもない。諦めて真正面から岩にぶつかると、そのままカヌーのバウが岩に乗り上げて止まってしまった。
 完全なお手上げ状態であることはすぐに分かった。幸いカヌーは、流れに真っ直ぐな向きなので安定している。 まずかみさんをその岩に乗り移らせて、私もカヌーの前部に移動してその岩に移る。
 「さて、これからどうしよう?」
 そのままカヌーだけを下流に流し、人間は川に飛び込むしかなさそうだ。
 そこへGさんが駆けつけてきてくれた。まずはカヌーだけを岸に渡す。岸と岩の間はそれほど離れていないので、カヌーを横に向ければ手が届く距離である。
 そして次に、レスキューロープを投げてくれた。
 そのロープを掴んで、「えーっと、これを掴んだまま飛び込めば良いのかなー、でもすぐ下は落ち込みになってるし、すんなり上がれそうにないかも・・・。」と考え込む。
 恐る恐る川に入ろうとしたら、Gさんから「違う違う、まずは奥さんから。」との指示。どうやら私とGさんとでロープを張って、それを伝ってかみさんを岸に渡らせるということみたいだ。
 「なるほど!」
 急流に流されそうになりながらも、まずはかみさんが助けられた。
 次は自分の番、やっぱりロープを掴んで川に飛び込むしか方法はないみたいだ。ロープをしっかりと掴み急流の中へ。すぐに体が流される。げっ、やっぱり落ち込みにのみ込まれるんだ!
 覚悟を決めてそのまま流されると、落ち込みに落ちたあと体がスーッと岸に寄っていった。
 「あっ、そうか!」
 岸でロープを固定していれば、それに掴まっている人間は自然と岸に寄っていくものである。

崖が崩れる鵡川の風景 Gさんに感謝して川下りを続けた。
 一度水に入ってしまうと、体力も消耗される。かみさんのパドリングにも力がなくなり、簡単に岩に張り付いてしまう。
 「あ〜、またやっちゃった」
 今度はカヌーから降りなくても何とか岩から外れそうだ。
 しかし、外れたのは良いけれど、カヌーが後ろを向いてしまった。慌ててその下で向きを変えようとしたが、流れに押されてしまって巧くいかない。
 瀬の中で横向きになるのだけは避けたいので、「もうこのまま下るぞー」と声をかけた。
 後ろを向いて岩の位置を確認しながら、バックストロークで瀬の中を下る。半分やけくそだが、意外とこれでも何とかなるものである。
 最後の岩をかわして、後ろ向きのままエディキャッチ!
 下で見ていた他のメンバーから歓声が上がった。
 もう〜、こんな事で歓声を受けても全然嬉しくないのだ。
 その後も同じような瀬が次々と現れる。
 「右だ」、「いや、左だ」、かみさんとの息も全然合わなくなってきた。前方に二つの岩。あ〜、またぶつかる〜。何を思ったか、かみさん、ど真ん中のその岩と岩の間に突っ込んだ。
 「結局ここかよ〜!」
 アリーの横っ腹を岩にガンガンぶつけながら、何とかその間を通り抜けることができた。
 その後も、岩を避けると言うより岩にぶつかりながら瀬の中を通り過ぎる。まるでスキーのスラロームの選手が旗門をなぎ倒しながら滑っているような感じである。
 アリーでこんな下り方をして大丈夫なんだろうか?

ゴール手前でホッと一息 「もうそろそろゴールですよ!」の声を聞いてホッとした。
 いつの間にか渓谷を抜けて、周りの風景も広々としたものに変わっていた。
 何とか沈もしないで、鵡川を下り終えることができた。アリーも底が少しへこんだものの、穴はどこにも開いてないようだ。
 まさかアリーでここを下れるなんて、思ってもみなかった。
 Nさん夫婦もTさん夫婦もとても嬉しそうだ。
 スタートしてから4時間、心身ともに疲れ果てていたが憧れの鵡川を下った満足感はとても大きかった。
 もう少し水量が増えれば、次回こそはニニウ〜福山にチャレンジしてみたい。


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