北海道キャンプ場見聞録
京都一周トレイル六日目 (2020/11/18)
二ノ瀬~高雄
トレイル歩きも6日目。
今日予定している歩く距離は16キロ以上。
距離的には問題ないけれど、公式ガイドマップのコースタイムでは8時間以上かかることになっているのが少し心配だった。
まあ、登山のコースタイムと違って、それよりはかなり早く歩けることが昨日までの経験で分かってはいたが、朝の6時半前には宿を出る。
市バス、叡山電鉄と乗り継いで、市原駅に到着。
この先が土砂崩れのため通行止めになっているので、一駅分、1キロ以上を余計に歩かなければならない。
午前7時15分市原駅からスタート。
今日歩く区間では食事できる店もないので、途中のローソンでおにぎりを買っていく。
この電車に乗ってもみじのトンネルを通り抜けたかった
途中の道路沿いに龍田大神の鳥居を見つけ、そこで今日のトレイル歩きの安全を祈願していく。
京都の場合、何処を歩いても何かしらの神社があるので、祈願場所に不自由しないのだ。
後で調べたところ、ここの神様は農業、製鉄にご利益があるみたいだが、その辺はあまり気にせず神様なら誰でも良いのである。
民家に挟まれた龍田大神
朝日が周りの山を照らし始める。
その朝の光が私達のいる場所まで届いてきて、鞍馬川沿いの紅葉を鮮やかに照らした。
朝日が紅葉を染め上げる
叡山電鉄の踏切を渡ったところに神社があったのでここでもお参りしていく。
森谷神社と富士神社が合祀された神社だ。
単管パイプで柵が補強されていたりして何か様子が変だなと思っていたら、神社の周りは根返りした杉の切り株だらけ。
どうやらここも2018年の台風21号の被害を受けたようだ。
社を囲んでいた殆どの杉が倒れてしまったようだが、その中で神社の建物に被害があった様子がないのは奇跡と言っても良さそうだ。
これこそ神様の御加護なのかもしれない。
神社の周りを囲んでいた木々が尽く倒れてしまったようだ
その先、夜泣峠に向かって急な登りが始まる。
途中で倒木から発生している美味しそうなキノコを発見。
私は写真を撮るだけのつもりだったが、かみさんはザックの中からビニール袋を取り出した。
収穫したボリボリ(ナラタケ)は、この日の夕餉の食卓に並ぶこととなる。
思わぬ自然の恵が
標高差200m以上を一気に登る道はなかなかハードだ。
台風による土砂崩れで途中の道が崩落し迂回ルートが設定されている。
20分ほどで夜泣峠まで登ってきた。
峠なので、そこから先は下りになるだろうと期待していたけれど、その期待は裏切られた。
旧ルートではそこから下りになっていたようだが、京都一周トレイルの新ルートはそこから更に向山に向かって登っていくのである。
ここから更に一登り
午前8時半、標高426mの向山山頂に到着。
小さな山頂標識が木の枝にぶら下がっているだけで、特に展望も開けず、そのまま先に進む。
下っている途中に何箇所かベンチが置かれていたけれど、できればこのベンチを向山山頂にも置いて欲しかった。
展望の開けている場所があり、目の前に巨大な煙突が見えていた。
京都クリーンセンター、ごみ焼却場の煙突である。
一昨日、比叡山に登っている途中にこのクリーンセンターが市街地を挟んだ反対側に見えていたことを思い出す。
左隅にクリーンセンターの煙突が写っている
そこから急なトレイルを一気にまた200m近く下っていく。
下り終わったところで澄んだ水の流れる川にぶつかった。
後で地図を見たら、この川は二ノ瀬まで来る時に横を歩いてきた鞍馬川だったのである。
そして、今日歩き始めた市原駅から直接ここに向かったとしたら30分もかからずに着いてしまうような距離であることを知り、複雑な気持ちにさせられたのである。
ちなみに鞍馬川は、ここで鴨川に合流して京都市内を流れ下ることになる。
この川が朝に見ていた川と同じだとは、この時は知らずにいた
一旦車道に出てきた後、トレイルは再び山の中へ入り、杉林の中の道を登っていく。
途中、小さな沢に架けられた丸木橋を渡る。
この丸木橋は、トレイル委員会が管理している橋で一の橋と名前が付けられ、定期的に架替えされているらしい。
一の橋を渡る
その先でノコギリを持ってトレイルを管理しながら歩いている方にお会いした。
丁度、トレイル上に斜めに倒れ込んでいる杉の木にステップ用の切込みを入れているところだった。
倒れかかった杉の木はかなり滑りやすい状態で、このステップが無ければ超えるのに苦労していたかも知れない。
右側の男性が倒木に切れ込みを入れてくれていた
お礼を言って先へと進むが、直ぐにまた追い付いてきたので先へと行ってもらう。
流石にトレイルを管理している方だけあって、登るスピードがぜんぜん違う。
盗人谷といわれる谷の中にトレイルは続いている。
その谷の中を縦横無尽に杉の巨木が倒れ込んでいる。
まるで迷路のような中、倒れた杉を潜ったり乗り越えたりしながら進んでいく。
倒木の迷路の中を歩く
途中でまた立派な丸木橋を渡る。
追い抜いていった男性から、「三の橋を過ぎると急な登りになりますよ」と言われていたが、これがその三の橋らしい。
架け替えられたばかりのような三の橋
言われたとおりに急な登りが始まった。
その急な登りを全く苦にしないかみさん。
そのうちに、追い抜いていった男性の後ろ姿が見えてきた。
かみさんからかなり遅れて登っていた私は、それを見て「まずいな~」と心配になってくる。
山スキーでは、前を登る人の直ぐ後ろにピタリと付いて煽りながら登るのが常なのである。
急坂を苦にせず登っていくかみさん
かみさんも一応は心得ていたようで、敢えてゆっくりと登っていたみたいだ。
私達を追い抜いていく時、「頑張って下さいね」を声をかけてくれていたのに、それを追い抜いてしまっては男性のプライドを傷付けてしまうことになる。
この辺りの杉は手入れが行き届き、下枝も綺麗に落とされている。
これが所謂北山杉と呼ばれるものなのだろうか。
良く手入れされた北山杉の美林
結局、標高差200m近くを再び登り返すこととなり、小峠と呼ばれる峠まで登ってきた時は汗だくになっていた。
峠で待っていてくれた男性を再び見送って、私達はそこで一休み。
男性はこの後、清滝まで歩いてバスに乗るとのことだったが、私達はそこまで歩くのは無理だと思って、その手前の高雄からバスに乗ることにしていた。
小峠で一休み
小峠から少し下ったところが氷室の集落である。
何とも静かな山里で、そこに広がる田園風景に心が癒やされるようだ。
氷室の山里を歩く
その町外れに氷室神社があった。
氷室とは夏に朝廷に献上するための氷を貯蔵しておく穴室のこと。
春に訪れた奈良にも同じ名前の神社があったが、こちらの氷室神社はそれと比べると随分と枯れた佇まいだった。
氷室神社
そこからは舗装された道を登っていく。
城山を過ぎると道は下り坂となり、その先でトレイルは二つに分かれる。
このルートはどちらも9月25日から11月10日までの松茸シーズンは通行禁止となる。
たまたまそのシーズンを過ぎていたのでそのまま進めるが、もしも松茸シーズンにぶつかっていたら、ここから一旦街まで下りて迂回しなければならないのだ。
松茸のために通れなくなるとは、北海道では考えられない話である。
舗装道路の登り
二つの分岐は、左へ行くと京見峠となっていたので、ここでまた登りたくないとの理由から、下り坂の右へ進むことにした。
しかし、この先で道を間違えることになる。
私のスマホに入れてあるYAMAPのアプリで、京都一周トレイルルートを表示できるようにしていた。
歩いている途中で何気なくそのアプリを表示したところ、曲がるべき場所を素通りしていた事に気が付いたのである。
幸いなことに、気が付いた時にはまだ100m程度しか通り過ぎていなかった。
もしもそこでスマホを見なければ、1キロくらいは通り過ぎていたかも知れない。
山の中に突然現れた立派なレストランにビックリ
途中で「山の家はせがわ」の看板の出た立派なレストランの前を通り過ぎていたけれど、トレイルはそのレストランの横から山道へと入るようになっていたのである。
結局、分岐したもう一つのルートと合流するために80mほど登ることになり、これならどちらに進んでも大した違いは無かったかも知れない。
既に午前11時を過ぎ、この先に昼食を食べるのに良い場所もなさそうなので、頑張って沢ノ池まで歩き、そこでコンビニおにぎりを食べることにする。
沢ノ池を目指しスピードを上げて歩いていると、思わぬ事態に遭遇する。
沢ノ池に向かうトレイルが土砂崩れに寄って通行止めになっていたのだ。
左へ向かう道が通行止めで、ここでトレイル一周を諦めかける
現地の案内板を見ると、このまま街まで下りるしかなさそうだ。
松茸シーズンの迂回路は、丁度ここから街へ下りるようになっているのである。
トレイルをこれ以上先に進めないのならば、トレイルの完全一周はここで断念するしか無い。
諦めの早いかみさんはサッサと下山道を歩き始めた。
私もその後ろに続いたが、どうしても諦めきれずにかみさんを呼び戻して通行止めの場所まで再び戻ってくる。
トレイルを管理していた男性は、トレイルが通行止めになっている話なんて何もしていなかった。
もう一度現地の表示を見てみたが、やっぱりどうしようもないみたいだ。
諦めてそこでおにぎりを食べることにした。
そこへやって来た女性3人グループ。
表示を見て下山道を下りていったが、彼女たちも諦めきれないのか、途中から引き返してきた。
大阪のおばさん風で元気が良い。
私が「通行止めの場所をまだ見てないけれど無理したら通れるかも知れない」と言うと、直ぐにその様子を見に行った。
しかし、間もなくして戻ってきて、道が完全に無くなっているので通るのは無理との話。
それでもまだ諦めようとしない。
東海自然歩道を歩けば迂回できるかも知れないと言い始めた。
私もスマホの地図を見てみると、確かに東海自然歩道を歩いて迂回できそうである。
遠回りになるけれど、その距離は1キロもなさそうだ。
そうしておばさん達は自然歩道へと向かい、昼食を終えて私達もその後を追った。
このおばさん3人組に助けられた
東海自然歩道は今まで歩いてきたトレイルよりも立派な道で、その先で沢ノ池に通じる舗装道路へと出てきた。
途中でおばさん達を追い抜いたけれど、もうひたすら感謝するだけである。
おばさん達に合わなければ、一周トレイル完歩を諦めていたところだ。
現地の表示は分かりづらかったけれど、落ち着いて見ていれば多分気が付いたはずである。
この点は反省が必要だ。
そうして、色々とあったけれど午後12時半に無事沢ノ池に到着。
沢ノ池に到着
やっぱりここでお昼を食べたかったと思うくらいに、沢ノ池は美しい場所だったのである。
そこで一休みしてから、同じく休んでいた大阪のおばさん風女性3人連れの皆さんに挨拶して再び歩き始める。
ここでお昼ごはんを食べたかった
途中で展望の開けた場所があったけれど、霞が濃くて遠くが良く見えない。
多分、京都市内を北から眺めていることになるのだろう。
途中から岩盤の露出した急な下り坂となる。
雨でえぐられ細い溝になっているような場所もある。
そこを下りると杉林の中の舗装された福ヶ谷林道へ出てくる。
良く手入れされた杉林が美しい。
変わった仕立て方の杉があったが、これは台杉と呼ばれる杉の仕立て方で、ここ北山地域で発展したものらしい。
これが台杉と呼ばれる仕立て方らしい
林道横の清冽な流れや、節理が目立つ岩を眺めながら歩いていると、暗い林道を抜けた先に艶やかな紅葉の風景が見えてきた。
紅葉の名所高雄に到着である。
時間は午後1時30分。
時間的にはトレイルを補修していた男性のように一気に清滝まで歩いてバスに乗ることも可能だが、それ程急ぐこともない。
せっかくの高雄なので少しは観光もしておきたい。
薄暗い杉林を抜けると紅の世界だった
3年前の秋に高山寺、西明寺、神護寺と回って美しい紅葉を楽しんでいたので、今日はとりあえず高山寺だけをサラリと見ておくことにした。
帰ってきてから3年前の写真と見比べてみると、訪れたのは今年の方が数日早かったけれど、紅葉は今年の方が色付いてきた気がする。
トレイル最後に今日一番の紅葉を楽しめた
ただ、境内の様子は広い空き地が広がっていたりと、3年前とは何となく様子が違う気がした。
やっぱりここも2年前の台風で大きな被害を受けたのだろう。
倒木も切り株まで処理してしまったので、台風の直接の被害は何処にも残っていないけれど、境内全体の木の密度も薄くなったようだ。
何となく寂しく感じながら、そのまま栂ノ尾のバス停まで下りて今日のトレイル歩きは終了。
この日の行動時間は6時間50分、歩いた距離は18.1キロ、そして登った累積標高は1175m。
ハードな一日を終え、疲れ切った身体でやって来たJRバスに乗り込んだ