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旭岳・間宮岳・中岳・裾合平(2011/7/2)

体力余ってます


 初めて登る表大雪の山。その対象として選んだのは、過去に何度も訪れて馴染みのある旭岳だった。
 でもそれは登山目的ではなく、天女ヶ原付近で雪中キャンプをするためである。一度だけ、ロープウェイに乗って地獄谷まで行ったことがあるけれど、それもゲレンデスキーを担いでのウィンターシーズンのことである。
 朝6時始発のロープウェイに乗るため旭岳青少年野営場に前泊。
 ロープウェイの改札口では、並んでいる私達の後ろにも長い行列ができていた。
  これじゃあ次便に乗る人も出てくるのかと思ったら、大型のロープウェイはそこに並んでいた人達全員をあっさりと飲み込んでしまう。後で調べたら100人乗りとのことで、心配することは何も無かったのである。

雪の残る姿見駅を出発 姿見駅に着いて、まずは入山届けに記入する。
人が沢山いた割には、私達の前には3組の名前しか書かれていない。
 記入しないで登っている人もいるのだろうが、ロープウェイに乗っていた人達の大部分は、山頂駅周辺だけを歩くのが目的のようだ。
 ゾロゾロと人の後を付いて登るのは嫌なので、周りに人がいなくなるのを待ってから登り始める。
 今年は雪解けが遅れているらしく、姿見駅の周りもまだたっぷりの残雪に覆われていた。
 ロープウェイには乗らず、何時も雪中キャンプをしている天女ヶ原付近が今時期はどんな様子に変わっているかを確かめるために、最初は麓から歩いて登るつもりでいた。
 ところが、ネットで旭岳ビジターセンターの情報を見ていると、雪が多くてそこを登れる状況ではないらしいので、やむなく安易な方法を選んでしまったのである。
 でも、歩いて登るところをロープウェイならば10分そこそこで運んでくれて、浮いた時間でもっと景色の良い場所を歩けるのだから、それを考えればわざわざ歩いて登る気にはなれない。
エゾノツガザクラやキバナシャクナゲが咲く 例年より雪は多くても、それが解けた場所にはキバナシャクナゲやエゾノツガザクラの花畑が広がっている。
 姿見の池も殆どが雪に覆われいたが、その雪の上に溜まった水が青く染まり、これはこれで美しい。
 旭岳への登山道は石室の横を通って尾根の上へと続いている。
 そこを真っ直ぐに登るつもりが、地獄谷の中でモクモクと煙を吐いている噴気穴を見ると、どうしても近付かずにはいられないのが私の性分である。
 登山道を外れ、遊歩道を歩いてその噴気孔に近付く。
 でも、冬にはその噴気孔の縁にまで近づいて煙に巻かれることができるのに比べ、今は柵に囲われた中から硫黄の匂いを嗅ぐのだけが精一杯で、ちょっと物足りなかった。


姿見の池 地獄谷の噴煙
まだ雪に覆われている姿見の池 地獄谷の噴気孔に近付く

 登山道に戻って山頂を目指す。
 草木も生えないガレ場の登りが延々と続く。
 しかし、南を見れば忠別岳からトムラウシ山、美瑛岳岳へと続く大雪山の山並みが一望できるので、その登りも全く苦には感じない。
広大な大雪の風景 ただ、尾根に出てからは体がふらつく程の強風が絶え間なく吹き付けてくるのでそちらの方が辛かった。
 旭岳の南方に漂っていた雲も次第に消えて無くなる。
 足下の斜面の白い雪渓の帯が次第に細くなり、その先に広がる広大な針葉樹の森に吸い込まれるようにして消えて無くなる。
 天女ヶ原の湿原も見えているが、我が家が冬にテントを張ったのはどの辺りなのだろうか。
 風景が大きすぎて、その場所を特定するのが難しい。
 上空には真っ青な空が広がり、風が強いことを除けば最高の登山日和である。
 外人の二人連れがすごい早さで私達を追い抜いていった。
 「やっぱり馬力が違うんだよな〜」と驚いていたら、しばらく登ったところでその二人が休んでいた。
 「ハーイ」と英語?で挨拶しながらその前を通り過ぎたが、結局そのまま最後まで抜き返されることはなかった。


雲が取れてきた ガレ場を登る
展望を遮っていた雲が取れてくる こんな場所を延々と登り続ける

 風を避けられそうな岩陰を見つけて、そこで私達も最初の休憩をとる。
 眺めも良いのでしばらく休もうと思っていたら、ドリンクを飲み終えたかみさんはさっさとザックを担ぎ始めた。
 「休んでいると乳酸が溜まるから」と訳の分からない理由で、山を登っている時は殆ど休もうとしないかみさんなのである。
 「休んだ方が乳酸が溜まらないはずなんだけど・・・」と思いながら、しょうがないので私もまたザックを担いだ。
金庫岩 地形図にも記載されているニセ金庫岩を通り過ぎ、真四角の形をした金庫岩まで登ってきた。
 登山道の下の方からもその姿が見えていた金庫岩は斜面から斜めに突き出て、風化が進めばそのうちに下まで転がり落ちそうにも見える。
 そうして旭岳山頂に到着。
 登り始めてから地獄谷への寄り道も含めて1時間45分、あっけない登頂だった。
 そこに広がる360度の展望。
 昭文社の「山と高原地図」を広げて、そこから見える山の名前を確認しているグループがいた。
 同じ地図を私も数日前に買ったばかりだったけれど、その地図は我が家のトイレの壁に貼られているのである。
 持ってきているのはパソコンで印刷した、今回歩く予定の周辺だけを含めたA4サイズの地形図だけ。
 初めて登る表大雪の山。そこから見える山の中で名前が分かるのは、冬のキャンプの時にも見えていたトムラウシ山だけである。
 こんな時にはそこから見える山の名前が分かっていた方が楽しいものであるが、大雪山の場合は、これから時間をかけて今見えている山一つ一つを登っていくつもりでいるので、今はまだ何も知らずに真っ白な状態でいる方が良いのかもしれない。


旭岳山頂からの展望
左がトムラウシ山、右の方はオプタテシケ山・美瑛岳・十勝岳の連なり

旭岳山頂からの展望
手前が熊ヶ岳とクレーター、その上に北鎮岳などが見える


 そんな展望を楽しんだ後は、ザックも降ろさずにそのまま間宮岳に向かう登山道を下りていく。
 今回は旭岳青少年野営場にもう1泊する予定なので、時間はたっぷりとある。
 そこで考えたのが、旭岳〜間宮岳〜中岳分岐〜中岳温泉〜裾合平〜姿見駅と一周するルートである。
 一般的なルートらしいけれど、ネットで調べると人によっては6時間とか8時間とか、コースタイムに随分と差があった。
 我が家の場合は何時も写真を撮りながら歩いているので、多分8時間の方に入りそうだ。
雪渓を尻滑りで下りる 花畑を横に見ながら下っていくと、目の前に広大な雪渓が現れた。
 一般的な登山者はこんなところでは尻滑りをするものだと聞いていたので、私達もザックの中に小さく切ったレジャーシートを忍ばせていた。
 ところが私達の先を下りていたソロの男性は、その尻滑りをせずに雪渓の中を歩いている。
 それを見たかみさんは「私は歩くわ」と言い始めた。
 ところが、私がレジャーシートを尻の下に敷いて滑り降りるのを見ると、それがやはり一番合理的でしかも楽しい方法であること理解したらしい。
 途中で待っていた私を追い抜いて、滑り降りていくかみさん。私も直ぐにその後を追いかけた。
 そのまま追い抜いてやろうと、足でブレーキをかけるの止めて両足を上に持ち上げたところ、一気にスピードが上がった。慌てて両足を戻してスピードを抑えようとしたけれど、全く制動が利かない。
 「滑落?!」と言う言葉が頭の中を過ぎり、必至になって体を投げ出し、ようやく止まることができた。
旭岳の裏側 尻滑りは楽しいけれど、シートを下に敷いていてもお尻がびしょ濡れになってしまうのが難点である。
 その雪渓が終わったところがちょうど裏旭のキャンプ指定地で、若者二人がテントを片付けているところだった。
 そこのテン場で過ごす夜は最高だろうけれど、トイレには苦労しそうだ。
 周りには何も遮るものが無く、他のキャンパーがいる時には女性は困ってしまうだろう。
 改めて、今下りてきてばかりの巨大な雪渓を振り返る。
 その小さな山が、麓から見上げていた雄大な旭岳の裏側だとは、にわかには信じられなかった。
 熊ヶ岳の斜面に広がる花畑を左に見ながら緩い登りを上がっていくと、熊ヶ岳のクレーターが現れる。
 そしてその反対側には再びトムラウシ山を中心とした雄大な風景が広がっていた。
高根ヶ原を眺めながら休憩 左に広がるなだらかな地形が高根ヶ原だろう。
 NHKKで放送していた冬の高根ヶ原の映像を思い出した。
 目の前に見えているのは、その冬の映像とは比べようのない穏やかな高根ヶ原だった。
 どんどんと先に歩いて行くかみさんを呼び止めて、その風景を眺めながら一休みすることにした。
 ポイント間のコースタイムは調べていなかったけれど、多分ここまでかなり速いペースで歩いているはずだった。
 このペースで歩いていたら12時頃には姿見の駅に着いてしまいそうである。

 再び歩き始めて北海岳方向への分岐に到着。
 正面に御鉢平が現れる。
御鉢平 間宮岳へはその分岐を左に進むのだけれど、北海岳方向に進んだ先に小さなピークがあったのでそこへ寄り道する。地図で見るとそのピークが荒井岳のようだ。
 縦走路はそのまま先へと続いている。
 荒井岳のピークから御鉢平を眺めていると、その周りを簡単に一周できそうな気がしてくる。
 縦走の経験もないので、山の上でのこのような風景を見ても、その距離感が全くつかめないのである。
 素直に元の分岐に戻って、予定していた間宮岳へと向かう。
 すると程なくして、間宮岳と書かれた標柱を発見。
 「えっ?これが間宮岳?」
 そこはとても山頂とは思えないような、真っ平らな場所だった。
 確かに、地図を見ても間宮岳の名前は書いてあるが、等高線からは山のピークらしいものは殆ど読み取れないところである。

 間宮岳を下り、その先の中岳分岐からは中岳温泉を目指して更に下っていくことになる。
 時間はまだ9時40分であり、しかも体力的にはまだまだ余裕があった。
 このまま予定のコースを歩くのでは物足りなく、目の前には美しい形の山が見えている。
北鎮岳まで登るのはさすがに無理 そこまで行けば御鉢平の更にその向こうの風景を見ることができそうだ。
 地図を見ながら、とりあえず中岳まで登ってみようと考えて、間宮岳を下っていった。
 中岳分岐まで下りてくると、そこからは上り坂に変わる。
 足下に咲く花や周りの風景を眺めながら登っていくと、あっけなく中岳の標柱が立っている場所までたどり着いてしまった。
 「あれ?ここが中岳?」
 御鉢平を囲む山々は、名前は付けられていても、ちっとも山らしくないのだ。
 間宮岳から眺めていた美しい山は北鎮岳だけだった。
 中岳から眺めても、さすがにその山頂まで登るのはきつそうだ。でも、北鎮岳分岐までなら登れるかもしれない。
 そうは思っても、初めての大雪山、自分の体力がどれほどあるのかもまだ把握していないし、今回は大人しくここから引き返すことにした。

中岳温泉へと下っていく 中岳分岐まで戻り、雪渓が美しい模様を描く裾合平に向かって下りていく。
 ここまで来るまでにも花は沢山咲いていたが、今回はここから中岳温泉までの間が一番美しいお花畑だった。
 キバナシャクナゲに、絨毯のように周りを覆ったイワウメの群落、その中に混じって咲くミネズオウなど。
 雪渓に飾られた背景の山と重なって、私が初めて目にする風景が目の前に広がっていた。


花畑の中を歩く 花畑と雪渓
花に囲まれて歩くのは気持ちが良い お花畑と雪渓

 そんな風景に感動しながら下っていくと深く切り込んだ沢の遙か下に中岳温泉が見えてきた。
 そこからは崖のような急斜面を削るように付けられた登山道を下りなければならない。
中岳温泉へ下る登山道 その登山道の一部は雪に覆われていたけれど、かろうじて縁の部分だけが雪の下から出ていたので、苦労せずにそこを通ることができた。
 事前の情報収集で一番心配していたのが、実はここだったのである。
 旭岳ビジターセンターの情報では「急な雪壁」と表現されていて、現地の様子も分からないので「雪の壁をどうやって下りれば良いのだろう?」と考えていたのだ。
 実際は雪壁を下りるのではなく、登山道の一部を埋めている雪壁を横切ることだったのである。
どちらにせよ、その雪壁の実際の傾斜を見ると、もしも登山道が出ていなかったとしたらかなり苦労させられた筈である。

 初めて見る中岳温泉は人が入れそうな深さはなく、せいぜい足湯を楽しむ程度である。
 熱湯が岩のそこからブクブクと吹き出ていて、そのままでは熱すぎてとても入れそうにない。
これが中岳温泉 時間は11時20分になっていて、ここから先で昼食をとれる場所はなさそうなので予定通りここで昼食にする。
 見晴らしの良い岩の上に登るとそこから先には一面の雪野原が広がっていた。
 一人の男性が、その雪原への取っ付きで苦労していた。
 多分、軽アイゼンも持っていないのだろう。
 苦労しながら雪の無い場所を迂回してようやく雪原の中へと入っていった。
 温泉の方では、後から下りてきたグループの人が、隣の沢水を引き込んで温度を下げ、足湯を楽しんでいる。
 食事を終えて私達も再び歩き始める。
 巨大な雪渓に取り付く前に、買ったばかりの軽アイゼンを装着。
 先月神居尻山に登った時、登山道の一部に雪が残っていて、緩やかな下りを尻餅をつきそうになりながら降りることとなり、アイゼンの必要性を痛感したのである。
 購入する時には4本爪か6本爪かで迷い、結局値段が6本爪の半額以下の4本爪のアイゼンを選んだ。
雪渓に取り付く 今日は気温が上がって雪渓の表面もザクザクになっているので、4本爪でも全く問題は無さそうだ。
 何も目印のない広大な雪渓だけれど、所々に赤テープを付けた竹の棒が立てられていたので、GPSに頼らなくても迷わずに歩くことができる。
 太陽の日射しと雪面からの強烈な照り返し。
 かみさんはタオルを顔に巻いて完全防備。私も日焼け止めを塗り直した。
 周りの山の雪渓が色々なものに見えて面白い。
 「チングルマ」と書かれた木製の看板が雪の上に頭を出していた。
 この雪が消えれば、この付近一帯はチングルマの花に覆われているはずなのがちょっと悔しかった。
 でもこの雪渓の風景も今しか見られないものなのだから不満はない。
 前方に見えていた雲が徐々に広がってきそうなのが気がかりだった。


完全装備のかみさん 雪渓が色々なものに見えてくる
完全装備のかみさん 雪渓が色々なものに見えてくる

雪渓の中を歩く
雪渓の向こうに雲が湧き上がってきた

 裾合平の標識を過ぎて雪渓が終わったところでアイゼンを外す。
 ところがハイマツの中の木道を渡りきると、その先に次の雪渓が広がっていた。
暗い雲が アイゼンが無くても支障無く歩くことはできるが、時々ズルッと滑ったりするので、微妙に体力を消耗する。
 その先もハイマツ帯と雪渓が交互に現れ、アイゼンを付けるのも面倒なのでそのまま歩き続ける。
 ここまで殆ど疲れを感じることなく歩いてきたけれど、ここでの雪渓歩きは結構きつかった。
 きつく感じた理由として、雪渓の上の歩きづらさの他に、雲が広がって周りの風景が何も見えなくなってしまったことが大きかった。
 最初に下界の方に真っ黒な雲が漂っているのを見た時は、これは確実に雨に降られると覚悟したけれど、濃い霧に包まれただけである。
 山の上と下界では雲の様子も違っているようだ。
 登山道は途中から雪解け水が流れる川に変わっていた。
 雪の上も気をつけて歩かないと、突然ズボッと太ももまで埋まってしまうことがある。
雲の下まで下りてきた やがて賑やかな話し声が霧の中から聞こえてきた。
 既に姿見駅周辺の遊歩道まで戻ってきたようである。
 こうして○13時50分に姿見の駅到着。
 下りのロープウェイに乗ると直ぐに雲の下へと出てきた。
 それまでの晴天が嘘であるかのように、上空は雲に覆われていた。
 最後にはその雲に包まれてしまったけれど、それまでに十分大雪山の風景を堪能できたので全く不満はなかった。
 これからもしばらくは大雪山通いが続きそうだ。

旭岳登山の写真 


姿見駅 旭 岳 荒井岳 間宮岳 中 岳 中岳分岐 中岳温泉 裾合平 姿見駅
1:45 1:05 0:05 0:35 0:15 0:40 0:30 1:20
距離:15.2km 標高差:690m

GPSトラック 平面図 縦断図 

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