そんな展望を楽しんだ後は、ザックも降ろさずにそのまま間宮岳に向かう登山道を下りていく。
今回は旭岳青少年野営場にもう1泊する予定なので、時間はたっぷりとある。
そこで考えたのが、旭岳〜間宮岳〜中岳分岐〜中岳温泉〜裾合平〜姿見駅と一周するルートである。
一般的なルートらしいけれど、ネットで調べると人によっては6時間とか8時間とか、コースタイムに随分と差があった。
我が家の場合は何時も写真を撮りながら歩いているので、多分8時間の方に入りそうだ。
花畑を横に見ながら下っていくと、目の前に広大な雪渓が現れた。
一般的な登山者はこんなところでは尻滑りをするものだと聞いていたので、私達もザックの中に小さく切ったレジャーシートを忍ばせていた。
ところが私達の先を下りていたソロの男性は、その尻滑りをせずに雪渓の中を歩いている。
それを見たかみさんは「私は歩くわ」と言い始めた。
ところが、私がレジャーシートを尻の下に敷いて滑り降りるのを見ると、それがやはり一番合理的でしかも楽しい方法であること理解したらしい。
途中で待っていた私を追い抜いて、滑り降りていくかみさん。私も直ぐにその後を追いかけた。
そのまま追い抜いてやろうと、足でブレーキをかけるの止めて両足を上に持ち上げたところ、一気にスピードが上がった。慌てて両足を戻してスピードを抑えようとしたけれど、全く制動が利かない。
「滑落?!」と言う言葉が頭の中を過ぎり、必至になって体を投げ出し、ようやく止まることができた。
尻滑りは楽しいけれど、シートを下に敷いていてもお尻がびしょ濡れになってしまうのが難点である。
その雪渓が終わったところがちょうど裏旭のキャンプ指定地で、若者二人がテントを片付けているところだった。
そこのテン場で過ごす夜は最高だろうけれど、トイレには苦労しそうだ。
周りには何も遮るものが無く、他のキャンパーがいる時には女性は困ってしまうだろう。
改めて、今下りてきてばかりの巨大な雪渓を振り返る。
その小さな山が、麓から見上げていた雄大な旭岳の裏側だとは、にわかには信じられなかった。
熊ヶ岳の斜面に広がる花畑を左に見ながら緩い登りを上がっていくと、熊ヶ岳のクレーターが現れる。
そしてその反対側には再びトムラウシ山を中心とした雄大な風景が広がっていた。
左に広がるなだらかな地形が高根ヶ原だろう。
NHKKで放送していた冬の高根ヶ原の映像を思い出した。
目の前に見えているのは、その冬の映像とは比べようのない穏やかな高根ヶ原だった。
どんどんと先に歩いて行くかみさんを呼び止めて、その風景を眺めながら一休みすることにした。
ポイント間のコースタイムは調べていなかったけれど、多分ここまでかなり速いペースで歩いているはずだった。
このペースで歩いていたら12時頃には姿見の駅に着いてしまいそうである。
再び歩き始めて北海岳方向への分岐に到着。
正面に御鉢平が現れる。
間宮岳へはその分岐を左に進むのだけれど、北海岳方向に進んだ先に小さなピークがあったのでそこへ寄り道する。地図で見るとそのピークが荒井岳のようだ。
縦走路はそのまま先へと続いている。
荒井岳のピークから御鉢平を眺めていると、その周りを簡単に一周できそうな気がしてくる。
縦走の経験もないので、山の上でのこのような風景を見ても、その距離感が全くつかめないのである。
素直に元の分岐に戻って、予定していた間宮岳へと向かう。
すると程なくして、間宮岳と書かれた標柱を発見。
「えっ?これが間宮岳?」
そこはとても山頂とは思えないような、真っ平らな場所だった。
確かに、地図を見ても間宮岳の名前は書いてあるが、等高線からは山のピークらしいものは殆ど読み取れないところである。
間宮岳を下り、その先の中岳分岐からは中岳温泉を目指して更に下っていくことになる。
時間はまだ9時40分であり、しかも体力的にはまだまだ余裕があった。
このまま予定のコースを歩くのでは物足りなく、目の前には美しい形の山が見えている。
そこまで行けば御鉢平の更にその向こうの風景を見ることができそうだ。
地図を見ながら、とりあえず中岳まで登ってみようと考えて、間宮岳を下っていった。
中岳分岐まで下りてくると、そこからは上り坂に変わる。
足下に咲く花や周りの風景を眺めながら登っていくと、あっけなく中岳の標柱が立っている場所までたどり着いてしまった。
「あれ?ここが中岳?」
御鉢平を囲む山々は、名前は付けられていても、ちっとも山らしくないのだ。
間宮岳から眺めていた美しい山は北鎮岳だけだった。
中岳から眺めても、さすがにその山頂まで登るのはきつそうだ。でも、北鎮岳分岐までなら登れるかもしれない。
そうは思っても、初めての大雪山、自分の体力がどれほどあるのかもまだ把握していないし、今回は大人しくここから引き返すことにした。
中岳分岐まで戻り、雪渓が美しい模様を描く裾合平に向かって下りていく。
ここまで来るまでにも花は沢山咲いていたが、今回はここから中岳温泉までの間が一番美しいお花畑だった。
キバナシャクナゲに、絨毯のように周りを覆ったイワウメの群落、その中に混じって咲くミネズオウなど。
雪渓に飾られた背景の山と重なって、私が初めて目にする風景が目の前に広がっていた。
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