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熊見山(2023/03/05)

バックカントリーでは謙虚に

天気の良い日曜日、カヌークラブのメンバーで日勝の山で滑ることとなった。
日曜日なので何時もの駐車帯も混むだろうと、集合時間は午前8時半になっていた。
ところが午前7時過ぎにSさんから電話があり、既に現地に着いているという。
「流石にちょっと早過ぎるんじゃねぇ」。

釧路のHさんが私の車に一緒に乗っていくことになっていたが、その電話から間もなくしてHさんがやって来たので、私も直ぐに現地に向かう。
午前7時40分に現地に着いた時には駐車帯もほぼ埋まっていた。
今日の参加者は12名。
車も後3台来ることになっていて全部停められるか焦ったけれど、近くの別の駐車帯も使ってギリギリで何とか停めることができた。

熊見山バックカントリー
日曜日は早めに来ないと停められないかも


Sさんの車に乗っていた3名は先に登っていて、残り9名は午前8時半にスタート。
まずは熊見山と労山熊見山の間にある沢を渡って熊見山の方に登っていく。
今回はその付近の斜面を下ることにしていたのだ。
この沢はかなり深いので、下の方の砂防ダム付近しか渡る場所が無い。

熊見山バックカントリー
砂防ダムから沢を渡る


その後、アカエゾマツの森の中を登っていく。
今シーズンは何度も日勝に来ているけれど、アカエゾマツの森の中を歩くことは無かったので、なかなか新鮮な風景である。

熊見山バックカントリー
光が差し込むアカエゾマツの森


今日は仲間内でパットゲレンデと呼んでいる斜面を滑ることになっていた。
ところが先頭のIさんは、パットゲレンデとは違う方向に向かっていた。

熊見山バックカントリー
アカエゾマツの森を抜けるとダケカンバが出迎えてくれる


熊見山に向かうしっかりとしたトレースがあったので、そこを登っているようだ。
そのまま熊見山に登って、そこから十勝側の斜面を滑るつもりでいるらしい。
労山熊見山には何度も登っているけれど、熊見山には2010年に一度登っただけ。
先にパットゲレンデに向かった3人とは暫く合流出来そうにないが、久しぶりに熊見山に登るのも楽しそうだ。
素直に、後ろから付いていくことにした。

熊見山バックカントリー
直ぐ隣に労山熊見山が見えている


熊見山へと続く稜線まで登ってきた。
その稜線には見事な雪庇が連なっていた。
国道274号を清水町から登ってくると、熊見山からペケレベツ岳へかけての稜線に雪庇ができているのが良く見える。

熊見山バックカントリー
雪庇の発達した稜線まで登ってきた
 

 

今日も何箇所かで雪庇が崩れているのが確認できて、そのまま雪崩れている場所もあった。
雪庇の張り出しはそれ程大きくはないが、それでもやっぱり崩れるのが怖いので、なるべく樹林帯に近い方を歩く。

熊見山バックカントリー
雪庇側には近付きたくない


怖いけれども、その風景は素晴らしい。
眼下に広がる十勝平野、そして清水町の市街地。
私の家の場所も大体見当がつくが、さすがに肉眼では建物までは確認できない。

熊見山バックカントリー
正面に見えるピークが熊見山の山頂


雪庇が連なって、これでは十勝側の斜面を滑るのは無理そうだ。
そう考えながら熊見山ピークまで登ってきたが、私の先に登っていた人達の姿が見当たらない。
近くにいた登山者に「私のグループのメンバーを見ませんでしたか?」と聞いてみると、「ここから降りていきましたよ」と教えてくれた。
一箇所だけ雪庇のない場所があって、そこから覗いてみると、皆は雪庇の下で滑走準備をしていた。

熊見山バックカントリー
雪庇が崩れた跡で滑走準備


「あ~、やっぱり滑るんだ」
尾根の上は風が強く、シールも吹き飛ばされそうなので、私も覚悟を決めてそこまで降りていく。
風は遮られるけれど、その場所には上から雪庇が落ちてきていた。
まあ、それ以上落ちてくることは無さそうだけれど、あまり良い気分はしない。

ここで初めて分かったのだが、I山さんはここの斜面をパットゲレンデだと勘違いしていたのである。
まあ、こんな話はちょくちょくあることなので、I山さんの天然ぶりには私も特に驚きはしない。

後からきたメンバーは、風は強いけれど、ここまで降りてくるよりはマシだと、尾根の上で滑走準備を始める。
先に降りていたメンバーは、次々に斜面を滑り降りていく。

熊見山バックカントリー
急斜面に足が竦む


私もその斜面が良く見える場所まで進んだが、そこで足が竦んでしまった。
皆は既に沢の下の林間部分まで降りているようだが、下に降りるにしたがって斜面の傾斜も急になっている。

斜面の雪は風に叩かれた重たい雪で、それが太陽の陽射しをまともに受けて、更に重たくなっている。
そして斜面の上部に張り出している雪庇。
とてもじゃないが、皆と同じ場所を滑る気にはなれずに、途中で左側の尾根の上へと逃げることにした。

熊見山バックカントリー
これ以上降りるのは諦めた


ようやく傾斜の緩い場所まで降りてきてホッとしていると、後続メンバーも続いてきた。
暫くすると、下まで降りていたメンバーも同じ場所まで登り返してきた。
話を聞いてみると、やっぱり雪は良くなかったようだ。

熊見山バックカントリー
傾斜の緩い尾根の上は安心できる


そこから改めてパットゲレンデへと向かうことにする。
先に登っていたメンバーとは離れたままだったけれど、それぞれトランシーバーを持っているので連絡は付いている。
私は、同じ場所を熊見山まで登り返して、そこから尾根伝いにパットゲレンデを目指すものだと思っていた。
ところが皆は何の迷いもなく、急な斜面をトラバースしていく。
「えっ?そこって安全なの?」
上には雪庇があるし、トラバースしていく先の様子も全く見えていない。
その先の尾根にも雪庇が続いているはずだし、尾根に上がる場所がなかったらどうするんだろう?

熊見山バックカントリー
上には雪庇があるし、この斜面のトラバースは気が進まなかった


 

そんなことを考えながらも、しょうがなく皆の後に続いた。
そうして尾根を回り込んだところで雪庇のない場所があり、そこから問題なく尾根の上に出ることができた。
でも、そうなっていることは誰も知らなかったはずである。
もしもその先にも大きな雪庇が続いていて、斜面の状態も悪くなっていたとしたら、どうしていたのだろう?
まあ、私が心配性なだけかもしれないのだが。

熊見山バックカントリー
何とか尾根の上に出られそうでホッと一息


尾根には上がれたけれど、予想通りその先にも雪庇が続いていた。
そして雪庇が崩れて、少しだけ雪崩れたような跡もある。
と思っていたら、それは雪庇が崩れたのではなく、先に登っていたメンバーが滑った時に雪崩れたものだった。
雪庇部分を除けば雪は安定しているようだけれど、今日は何となくトラップが多い気がする。

熊見山バックカントリー
雪庇が落ちたのかと思ったら雪崩れた跡だった


私達もその近くの斜面を滑る。
少し樹木が混んでいて、風で飛ばされた雪は少し重たい。
それでも、熊見山の斜面と比べると全然滑りやすい。

熊見山バックカントリー
これくらいの斜面なら安心して滑ることができる


その先の灌木帯を抜けると、急に視界が広がり、雪も柔らかくなった。
これがパットゲレンデだ。
勇んで滑り始めるが、今シーズンはスキー場のゲレンデで滑りの練習もしていない。
思うようなターンができずに、あれ?あれ?と思っている間に下まで降りてしまった。

熊見山バックカントリー
斜面は良かったけれど滑りは今一


これが一発勝負の山スキーの難しいところである。
上手く滑れなかったからリフトに乗ってもう1本、という訳にはいかない。
バックカントリーでは、もう一度滑りたければ、滑り降りた分を登り返さなければならないのだ。

熊見山バックカントリー
滑り降りた分だけの登り返しが待っている


登り返しのルートでは、所々に固い雪面が露出していて、そんなところでは必要以上に身体に力が入ってしまう。
熊見山まで登った時よりも疲れながら、滑り始めた場所まで戻ってきた。
ここでようやく今日のメンバーが全員揃うことができた。

熊見山バックカントリー
風の当たらない場所で休憩


雪も良かったし当然のようにもう1本滑るのだろうと覚悟していると、一番最後から登ってきたI山さんの口から「僕はもう止めます」との信じられない言葉が出てきてビックリする。
昨日は別の山に登って、その後はススキノで遅くまで飲んでいて、流石に今日は最初から疲れ気味だったようだ。
熊見山の急斜面を真っ先に滑り降りていった元気の良い2名が、ここでももう1本滑ることになって、他のメンバーはこれで終わりにすることになった。

最後にアカエゾマツの森の中を気持ち良く滑り降りて、12時半に車まで戻ってきた。
満車だった駐車帯も、残っているのは私達のグループの車だけ。
集まるのが朝早いと解散するのも早いようだ。

熊見山バックカントリー
最後は車まで一気に滑り降りる


この日、丁度私達が戻ってきた頃に隣のペケレベツ岳の東斜面で雪崩が発生し、4人パーティーのうち60代の男性1名が巻き込まれて行方不明になり、翌日になって心肺停止状態で発見された。
亡くなられた方は登山のベテランでビーコンも装備していたのだが、スイッチを入れ忘れていたようで雪崩に巻き込まれた後も反応は無かったとのこと。
同行者の方は、出発前にビーコンチエックをしなかったことを悔やんでいたらしい。

ペケレベツ岳
雪崩事故の発生したペケレベツ岳


私達も今回は、出発がバラバラだったこともあり、ビーコンチェックをしていなかった。
雪崩の原因は不明だったが、私達が最初に滑った熊見山の東斜面は、ペケレベツ岳の東斜面と状況は似ていたはずである。
私達が無事に戻ってこられたのは、ただラッキーだっただけなのかも知れない。
自然の中で遊ぶにはもう少し謙虚になった方が良いような気がする山行だった。



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