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白樺山・ビーナスの丘(2018/03/24)

ニセコ縦走

快晴の空の下、新見温泉からチセヌプリを目指して、ニセコプチ縦走のスタート。
メンバーは3日前に朝里岳沢を滑った時と同じ5人。
この時から、普通の縦走では終わらない雰囲気がぷんぷんと漂っていた。

出発は午前8時20分。
まずは白樺山を目指して、ダケカンバの古木が多い森の中を登っていく。
3月下旬ともなると雪面は固く締まり、歩いた後にはストックの刺さった穴しか残らない。
ラッセルの必要がないので、何時ものように一列縦隊になることもなく、各々好き勝手なルートで登っていく。

陽射しも強く、F本さんは半そでTシャツ姿だ。
曲がりくねった枝を大きく広げるダケカンバが真っ白な雪面に影を落とす。


 


その雪面の上では小さなセッケイカワゲラが動き回っている。
時々気が付くのが遅れて、そのセッケイカワゲラをスキーで轢いてしまう。

これから向かうビーナスの丘やシャクナゲ岳が、沢の向こう側に時々姿を見せる。
反対側には先の尖った目国内岳の姿も見えている。


それにしても、このメンバーだと登るスピードが速い。
写真を撮っているとあっと言う間に置いていかれるので、慌てて後を追いかける。

樹林帯を抜け、892mのポコを目指して登っていく。
傾斜は次第にきつくなり、相変わらず雪面は固いが、シールが良く効くので登るのには苦労しない。

樹林帯を抜けると目国内岳や前目国内岳がその全貌を現す。
その光景は、ここを登る時のクライマックスだと思う。

892mポコで一休み。
ビーナスの丘やシャクナゲ岳もその全貌を現しているが、反対側から眺めるような美しさは無い。

I山さんが登ってこないなと思ったら、ポコを巻いて何時の間にか先に進んでいた。


892mポコから眺める前目国内と目国内岳


何時もの南東斜面へのドロップポイントまでやって来たところで、I上さんがそこの斜面を見て滑りたそうにしている。
ところがI山さんは、白樺山の山頂を越えた先の北斜面を滑ろうと考えていたようだ。
南東斜面を一度滑るか、それとも先に進むかで、しばらく迷う。


この先から右側の斜面へ滑り降りる

普通の縦走ならば、このまま白樺山のピークを踏んで、次の山へと向かうところである。
ところがこのメンバーの縦走は、山の中を歩きながら、良い斜面を見つけては滑りまくるのが目的なのである。

南斜面の雪は陽射しが強いので表面が少し溶けてきている。
同じ滑るのならば、こちらの方が滑りやすそうな気がした。

結局、I上さんが「ここは良いと思うよ」と言い続けるので、悔いを残さないようにまずは南東斜面を1本滑ることとなる。
そうと決まると、何も意見を言っていなかったF本さんが、準備ができた途端にあっと言う間に下まで滑り降りていってしまった。
もしかしたら、F本さんが一番滑りたくてウズウズしていたのかもしれない。

予想通り、表面が軽く溶けてきた雪はとても滑りやすかった。
最終的にはここでの滑りが一番楽しめたので、やっぱり悔いを残さなくて正解だったのである。


滑った分の標高差130mを15分で登り返し。

そして10時35分、白樺山山頂に到着。

ここからの眺めでは岩内平野と日本海、そしてその先の積丹半島の真っ白な山並みがとても印象的である。
前目国内と目国内岳の他に岩内岳も見えている。

シャクナゲ岳はビーナスの丘の後ろに隠れ、全体が一つの塊のようになって、ますます見栄えが悪くなっていた。

ここからは北斜面を滑るのだろうと覚悟を決めていたが、雪が悪そうだからとビーナスの丘との間の沢に向かって滑り降りることになる。

これは嬉しかった。
北斜面を滑ってしまっては、ビーナスの丘に向かうためには、そこをまるまる登り返さなければならないのだ。


 


ビーナスの丘手前の沢に滑り降りる

ここから先、白樺山とシャクナゲ岳の間は私にとっては未踏ルートである。
縦走でなければ、なかなか歩く機会のない区間なのだ。

山頂から広大な斜面に向かって滑り降りる。
山頂直下はガリガリのアイスバーン、途中からはシュカブラもできている。
突然柔らかい雪があって、そこでスキーをとられて転倒。
途中には緩斜面。
最後の沢に降りる僅かな部分だけが滑りやすかったけれど、ここでの滑りは今一だった。

上の方では風が強かったけれど、沢の中は風も当たらずにポカポカと暖かい。
ここで20分ほど休憩。


白樺山の山頂から広大な斜面を滑る

風の当たらない沢の中で休憩



後ろには白樺山が見えている

ビーナスの丘へと向かう余分な登り返しは40m程度である。
沢から上がると目の前には広大な雪原が広がる。

そしてその先には、なだらかな丘がいくつも重なり合って見えている。
白樺山の山頂から眺めていたのとは全く違う風景で、地図を見なければどちらに向かって進めば良いのか分からなくなる。

その丘の上から白い飛行機雲が伸びてきた。
真っ白な山と真っ青な空、そこに伸びる白い飛行機雲。
とても絵になる風景だ。

その飛行機雲を目で追っていくと、そこに月が浮かんでいるのに気が付いた。
とても淡いその姿は、飛行機雲を見ていなければ気が付かなかったに違いない。


夏道はビーナスの丘の右側からシャクナゲ岳の間を通っているが、皆は丘の左側に向かって登っていた。
多分、そこの東斜面を滑るつもりでいるのだろう。
私も以前から気になっていた場所でもある。

丘を登っていくと、その先にチセヌプリが姿を現してきた。
さすがにその姿は存在感がある。

シャクナゲ岳も本来の端正な姿を見せてくれる。
下の方には雪に埋もれた神仙沼も見えていた。

東斜面は斜度もあって、雪が悪ければ滑るのも苦労しそうだと心配していたが、上から眺めると少し南側から回り込むように滑り降りれば斜度もそれほどきつくはない。

斜面にはシュプールも刻まれ、その下には滑り降りたばかりの数名の人の姿も見えていた。
これならば何とかなりそうだ。


隣にはシャクナゲ岳が見える

神仙沼も見えている


順々に滑り降りていく。
最初はちょっとガリガリだったけれど、途中から斜面には薄い雪が付いていた。
ただ、風でパックされた雪なので、それを割りながらターンしなければならない。

私の前に滑っていったI上さんに刺激され、私も調子込んでターンしていると、やや深い雪にスキーをとられて思いっきり転んでしまう。
嫌な転び方だったけれど、体の方は何ともないようだ。
それでビビってしまって、その後は慎重に滑り降りる。

雪が悪いと滑っていても足への負担が大きい。
下まで降りてくると足はもうガクガクだった。

降りてきたところの平らな雪原の下は長沼である。
周りを山に囲まれ風も当たらないので、ここで一休みする。
のんびりと休憩しながら自分たちの滑り降りたシュプールを見上げるのは、なかなか良い気分だ。
パウダーの時にここを滑ったら最高だろう。



しかし、ここの下にあるチセヌプリスキー場は外国資本の会社に買い取られ、現在はキャット専用のスキー場となっている。
それだけなら良いのだけれど、一般登山者のゲレンデ侵入を禁止しているのである。
おかげでチセヌプリやビーナスの丘は、以前よりも遠い存在となってしまったのだ。

雪原にはスノーモービルの跡が伸びていた。
ちなみにニセコの山域は、そのほとんどがスノーモービル等の乗り入れ禁止区域に指定されている。
ここも当然その区域内である。

その事実を知らないのか、知っていて無視しているのか、いずれにせよ意識の足りない人間であることに変わりはない。

そろそろ私の足も限界に近づいてきていた。
一番恐れていたのは、最後にチセヌプリの山頂まで登ろうとの話になること。
目の前に聳えるチセヌプリの山頂は直ぐ近くに見えているけれど、ここからの標高差は350mもあるのだ。


長沼から見えるチセヌプリ

I上さんの提案は、山頂まではいかないけれど、チセヌプリの北側に回り込んでそこに良い斜面があれば一滑りしようと言うもの。
ここからチセヌプリとシャクナゲ岳の間のコルまで登れば、後はチセヌプリのスキー場に向かって滑り降りるだけ。
北側へ回り込むというのは、それとは全く逆方向に向かうということだ。
I上さんの頭の中には、この付近の地図が入っているのだろうかと疑ってしまった。

そんな信じられないようなI上さんの提案に逆らう人は誰もいない。
F本さんの頭の中はI上さんと同じ構造だし、I山さんはこうなることは最初から覚悟しているのだ。


一人で黙々と滑る人の姿が

まずは長沼の東側の尾根へと上がる。

すると、ビーナスの丘の一番の急斜面を滑っている人の姿が見えた。
私たちが滑っている時に一人で登り返していた男性だ。

そこに刻まれている4本のシュプール。
多分、その全てがその男性一人で描いたシュプールなのだろう。
変な人は何処にでもいるものなのである。

北斜面の雪がそれほど良さそうに見えないので、チセヌプリの西斜面を長沼に向かって滑り降りようとの話になる。


何処を滑るか相談する二人

しかも、そんなに上までは登らないようなのでホッとした。
長沼からの登り返しは100m程度で済んだのである。

しかし、チセヌプリの西斜面はサンクラストしていて、私の疲れ切った足ではターンもできず、滑り降りるだけで精一杯。
下まで降りたところで、スキーに再びシールを張る。
これだけシールを張ったり剥がしたりを繰り返していると、その手際も良くなってくる。
そうして最後の登り返し、本日これが4回目である。

登り返しでは、I上さん、F本さん、かみさんの3人の背中がどんどん小さくなっていく。
やっぱり、この3人の体力は別格である。

シャクナゲ岳とビーナスの丘の姿に目を奪われる。
反対側から見ていた姿とは、とても同じ山とは思えない美しさである。


そうして標高900m付近でシールを剥がして、スキー場へ向かって滑り降りる。
スキー場のゲレンデに入ると怒られるらしいので、東側の林間をトラバースする。


最後まで滑り続ける人たち

I上さん達3人は、そのトラバース途中にも「ここ滑れそうですね」と言っては滑り降りている。
私はそんな体力もなく、ただひたすらトラバース。
下まで降りてくると、底までザクザクとなった腐れ雪で、ターンするのも一苦労。
そうしてようやく午後2時半にチセヌプリの駐車場まで降りてきたのである。

今回の縦走で歩いた距離は12キロ、登った累積標高は1170m。(GPSトラックログ縦走縦断図
さすがに疲れ切っていたけれど、天気も良くて最高の縦走を楽しめた。

体力のある人達と一緒に遊ぶのは大変だけれど、一人だけ60を過ぎた私を相手にして、全くの手加減無しで遊んでくれるのが逆に心地よく感じる。
これからも一緒に遊んでもらえるように、体力維持に努めなくては。

縦走の写真
I山さん撮影動画



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