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大沼山(2016/2/28)

これがパウダー


定山渓天狗岳朝7時、集合場所である豊滝の道路情報館駐車場に到着して車から降りた瞬間、あまりの寒さに身体が震え上がった。
車の温度計はマイナス15度を表示している。
朝から素晴らしい青空が広がり、放射冷却で気温も下がっているのだろう。
I山さん、N島さんがT津さんの車に同乗し、我が家と2台で定山渓の豊羽鉱山跡に向かう。

今回目指すのは大沼山だ。
我が家にとっては8年ぶり、3回目の山である。
豊羽鉱山へ向かう道は相変わらず雪深く、途中で見える定山渓天狗岳の姿は、まるでヨーロッパアルプスを思わせる。

以前はヘアピンカーブの奥に車を停めていたけれど、最近の情報では、そこに車を停めると「除雪の邪魔だ」と張り紙をされるらしい。
駐車場所ヘアピンカーブを過ぎた先に山側の路肩が広めに除雪されているスペースがあったので、そこに停めておくことにした。

除雪でできた高さ3mの雪の壁をよじ登り、そこでスキーを履く。
昨日から新たに15センチくらいの雪が積もったようだ。
それもふわふわのパウダースノーである。

今までも「パウダースノー」の言葉を使っていたけれど、今日の雪を見ると、言葉の使い方を間違っていたことに気が付かされた。
一粒一粒の雪が美しく結晶した姿のまま降り積もっている。
それを両手ですくって息を強く吹きつけると、まるでタンポポの綿毛のように飛び散ってしまうのだ。

そんな雪に覆われながらも、昨日のものと思われるトレースがはっきりと残っていた。
そのトレースの中を登っていく。

大沼山を登る気温は低くても、風も無く陽射しも強いので、直ぐに身体が汗ばんできた。
皆も上着を一枚脱いで登っていく。

何時ものようにI山さんが先頭で、その後にかみさんが続く。
私が3番目で、その次を登ってくるN島さんが遅れていないか、時々後ろを振り返って確認する。
今日はそんなに遅れることもなく付いてきていたN島さんは「これくらいのペースだと大丈夫だ」と言っていた。
私には、それ程ゆっくりと登っている感覚は無く、N島さんが山を登ることに慣れてきただけのような気がした。

標高790mの大地まで登ってきたところで一休み。
それまでは、木の枝越しにチラチラと姿を見せていた定山渓天狗岳が、ここに来て何物にも遮られずに、その険しい山容を惜しげも無くひけらかしていた。
これが大沼山を登る時の楽しみの一つなのである。


定山渓天狗岳を背景に
後ろに見える定山渓天狗岳の姿が大沼山を登る時の楽しみ

大沼山を登るその先の875mポコは西側から巻いていく。
何も考えずにトレースに従ったが、最後は巻いた先のコルに向かって10m以上滑り降りることになってしまった。
これでは、帰りはここを登り返さなければならない。
そんな事にならないように正しいルートをGPSに登録しておいたのに、迂闊だった。

右手に余市岳の姿も見えてきた。
私の知っている余市岳のイメージと少し違っていて、その隣のほぼ平らに見える朝里岳との位置関係も、何か不自然な気がしていた。
暫くしてからようやく、何時も見ているのとは反対側から余市岳を見ていたことに気が付いて、納得できた。


余市岳
何時も見ているのとは逆方向から余市岳を眺める

青空と雪化粧した木々全体を雪に覆われたエゾマツや、青空に向かって枝を伸ばすダケカンバの巨木。
美しい雪山の風景が登る疲れを忘れさせてくれる。

標高950m辺りから急な登りが始まる。
その手前で2度目の休憩。
相変わらず日差しも強くて風も無かったが、気温が明らかに低くなっているのを感じて、脱いでいた上着を着込んだ。

休憩を終えて歩き始めた時、後ろのN島さんがシールをスキー板に止めている金具が外れていることを教えてくれた。
それを立ったままで直そうとしたところ、バランスを崩して雪の中に倒れこんでしまった。
知っている人なら分かると思うが、柔らかい深雪の中で転んでしまうと、一人では起き上がるのは至難の業である。
止むを得ずN島さんに助けを求める。
するとN島さんは、とても嬉しそうに「おーい、カメラ、カメラ」と叫びながら、私に慈悲の手を差し伸べてくれた。
そして遠くからは、かみさんがニヤニヤしながら私達の方へカメラを向けていたのである。


雪化粧したエゾマツ
雪化粧したエゾマツに囲まれる

大沼山の急斜面 助け起こされる
一番の急斜面に向かう N島さんに助けられた

トレースに従って、その先の急斜面を何度もジグを切りながら登っていく。
登る角度も急なので、スキーが時々スリップしてしまう。
そのために、ここまで順調に登ってきていたN島さんが遅れ始めた。

大沼山の急斜面を登る私も何度も経験していたが、スリップし始めると僅か1mの高低差をどうやっても登れなくなるのだ。
ストックを使って全力で身体を支えながら、登るしかない。
こうなると一気に体力を消耗する。

急斜面の途中で待ち続けるのもしんどいので、助け起こされた恩も忘れ、N島さんを一人見捨てて、先に斜面の上まで登ってしまう。
僅か5〜60m程度の標高差なのだが、斜面の上は別世界だった。
ダケカンバの枝は、その先端まで氷に包まれ、強い日差しを受けてパラパラと氷片が剥がれ落ちてくる。
その他の木々も分厚い雪の衣をまとい、見事なまでの白銀の世界となっていた。

そんな風景や余市岳の姿などを眺めながら皆でのんびりと談笑していると、忘れかけた頃になってようやく、疲れきった表情を浮かべながらN島さんが追いついてきた。


大沼山の眺め
ようやくN島さんが登ってきた

そこから大沼山山頂までは標高差およそ100mだ。
トレースが完全に消えてしまったので、私が先頭に出てラッセルする。
山頂間近雪が深いので、かなりきついラッセルだった。
真っ白な山頂の姿が見えてきたところで、かみさんとI山さんに後を任せ、私は最後尾に下がった。

山頂には雪庇も発達しているので、その切れ間から山頂へと上がる。
前を登っていた3人の姿が見えなくなる。

すると間もなくして、T津さんの「すげ〜ぇ」と言う叫び声とかみさんの喚声が聞こえてきた。
二人を感動させているのは、恐らく羊蹄山の姿のはずだ。
山頂まで登って初めて見える羊蹄山。
これも大沼山の魅力の一つなのである。

そして最後にN島さんと私が山頂に到着。
期待通りの素晴らしい展望が待っていた。


大沼山山頂へ向かって
大沼山山頂に向かっての最後の登り

羊蹄山をバックに記念撮影ここで私が一番好きなのが、千尺高地から長尾山にかけての稜線の眺めである。
稜線の左側には雪庇が美しい曲線を描き、その右側の緩やかな斜面には真っ白く雪化粧した疎林が広がる。
何度見ても飽きる事の無い風景である。

そこから視線を右に転じていくと、長尾山から無意根山、中岳へと稜線が繋がる。
遠くに小さく見える尻別岳、そして一際存在感のある羊蹄山が聳えている。
その右にニセコ連山が広がり、海を挟んで積丹半島の山塊が見える。
そして余市岳、定山渓天狗岳、烏帽子岳と札幌近郊のお馴染みの山へと続く。
まさに360度のパノラマである。

そんな風景に感動しているところへ、2台のスノーモービルが登ってきて、興醒めさせられる。
一応は私達に気を使ってくれている様子だったが、そのけたたましい騒音と撒き散らす排気ガスの臭いはどうしようもない。


長尾山へと続く稜線
長尾山への稜線の眺めが好きだ

大沼山山頂からの眺め
烏帽子岳や百松沢山など札幌近郊の山を眺める

山頂斜面を滑る大沼山は下山時の滑りも楽しめると照会されているが、今シーズンの山スキーは滑りメインの山にばかり出かけていたので、そんなところと比べると見劣りしてしまう。
まずは山頂直下の僅かな斜面を順番に滑る。
今シーズンに滑ったパウダーの中でも、今日のパウダーは一際軽く感じる。
登る前には真っ白で美しく見えていた山頂への斜面も、5人が滑るとあっという間にズタズタになってしまった。

その次は、N島さんが登るのに苦労していた急斜面である。
今回はT津さんがビデオ撮影班として、一番最初に滑り降りていく。
ここは途中から急に斜度がきつくなるので、その手前まで下の様子が見えないのが難点である。
でも、途中で止まるのは勿体無いので、適当に見当を付けて一気に滑り降りる。

急斜面の上まで来た時、新たに5人パーティーが登ってきているのが目に入った。
「ここで転んでは格好悪い」と思いながらも、彼らに見せびらかすように思いっきりスプレーを上げて滑り降りる。
雪が軽いので、続くI山さん、N島さんも派手に粉雪を舞い上げながら滑っている。


I山さん N島さん
豪快にスプレーを上げるI山さん N島さんも格好良い

かみさんの滑り最後になったかみさんは、皆とは違う方へ向かって滑っていく。
そしてわざわざ雪庇ができている場所から飛び降りてきた。
唖然として見ていると、そのまま傾斜が一番急な斜面を滑ってくる。
かみさんがゆっくりとターンしている間に、そこに積もっていた軽い雪が一斉に流れ落ち始めた。

まるで、エクストリームスキーのビデオで雪崩の中を滑っているシーンを見ているみたいだ。
そんな状況だった事を知ってか知らずか、「何か途中でジャンプしたような気がしたんだけど」とケロリとしているかみさんだった。

その後、林間を滑り降りていくと、ご夫婦の山スキーヤーとすれ違った。
私達が降りていく方向と違う方を指して「向こうに楽しい斜面がありますよ」と教えられる。
「そんな所あったかな?」と思いながら、言われた方向に滑っていくと、林間を抜けた先に突然オープンバーンが現れた。
途中のオープンバーン登ってくる時に、この斜面を見ていたことを思い出す。
斜度は足りないけれど、それなりに楽しく滑ることができる。
教えられなければ、樹木の混んだ林間を滑り降りるところだった。

その後の875mポコは、登り返すのが嫌なのでラッセルしながらトラバースする。
少し登り返してから、登りのトレースを利用するのとどちらが楽だったかは微妙である。

やっとの思いで登りのトレースに合流できたところで昼の休憩にした。
陽射しは暖かく、まるで春スキーの雰囲気だが、実際の気温はかなり低い。

休憩を終えて再び滑り始めるとき、これが思わぬ事態を招いた。
陽射しの強い場所では、さすがに雪も解けてきていたが、それ以外の場所はサラサラパウダーのまま。
道路への雪壁を降りるそこを交互に通過していくと、スキーの滑走面に付いた水分が次の瞬間には凍り付き、それを繰り返している間にスキーの底には雪が分厚く付着する。
何だかスキーの滑りが悪いなと思って見てみると、まるで高下駄を履いている様な状態になっているのだ。

それでも、林間部分の雪は軽いパウダースノーのままなので、最後まで気持ち良く滑り降りられた。
私の好きな大沼山に、これ以上は無いくらいの素晴らしい条件で登ることができて、楽しい山行となったのである。
もうすぐ3月、これからはパウダーに巡り会う機会も少なくなりそうだ。

GPSトラック



道路取り付き7:45 - 790m大地8:45 − 10:30山頂10:50 - 駐車場所12:30 



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