旧大滝村の百畳敷洞窟に冬の間に現れる氷筍(通称にょろにょろ)。
これを初めて見たのは、5年前だった。
室蘭夜景を楽しんだ翌日、札幌へ帰る途中で久しぶりにこのにょろにょろを見に行くことにする。
積雪がゼロに近い室蘭を出てオロフレ峠を越えると、そこはまるで違う国のような白銀の世界。
室蘭の気温は朝から3度近くまで上がっていて、これではにょろにょろも溶けてしまうのではと心配していたが、大滝村では逆にマイナス3度。
一つ山を挟むだけで気候ががらりと変わってしまうことを実感させられる。
百畳敷洞窟への入口となる部分には除雪されたような駐車スペースがある。
にょろにょろへの商業ツアーをやっている某ツアー会社のホームページでは、無断駐車のトラブルがある等と書かれているので、近くの道路際の邪魔にならない場所に車を停める。
日曜日なので、そこのツアーと鉢合わせするのも嫌だな〜と思っていたら、運の良いことに今日は私達だけしかいないようである。
今日は朝からずーっと曇り空だったのに、ここに来てようやく青空が覗き、陽も射してきた。
そんな中、真っ白な雪原を気持ち良くラッセルしながら歩いて行く。
その先は林道のような場所を川の上流に向かってひたすら歩いて行くだけである。
前回は1時間程で目的地に着いたけれど、今回はラッセルしながらなので、もう少し時間がかかりそうだ。
しかし、林道部分に入ってから何となく雲行きが怪しくなってきた。
林道部分には笹が密生していて、その上に雪が積もった状態である。
そこを歩くと、雪面を突き抜けて、その下の笹藪の中にまで埋まってしまうのである。
歩けないことはないけれど、ラッセルと藪こぎの両方をやっているようなもので、これでは体力が続きそうにない。
そして、雪が積もってからここを歩くのは多分私達が一番最初って感じなのである。
百畳敷洞窟までは、もっと雪が積もってからでないと歩けないのだろうか?
いや、そもそも12月の今時期ではにょろにょろも育っていないから、誰も見に行く人はいないんじゃないだろうか?
そんな不安が頭を過ぎってくる。
ここで引き返す気にもならないので、行けるところまで行ってみることにした。
疲れ果てた私に変わって、かみさんが前に出る。
かみさんは体重が軽いので、それ程沈まずに歩いて行く。
しかし、その跡を歩いても、私は時々ズボッと埋まってしまうのである。
履いているのはMSRのスノーシュー。
山登りには向いているけれど、こんな場所を歩くには浮力が小さすぎるのだ。
それでも笹藪地帯を通り抜けると、比較的歩きやすくなってきた。
雪が積もって真っ白になった森の風景を楽しむ余裕も出てくる。
残念ながら青空の方はいつの間にか見えなくなり、逆に厚い雲が広がってきていた。
林道の横は深い谷になっていて、その向こうに見えていた山も次第にその雲に隠されつつある。
近くでバフッ、バフッと、奇妙な音がしていた。
かみさんが「風穴かしら?」と言っている。
音の聞こえてくる場所を確かめてみると、林道脇の大きな岩の下がその音の発生源のようである。
そこだけ雪が溶けて小さな穴になっていて、その中から音が聞こえてきていた。
どうやらそこから水蒸気かガスが噴き出しているらしい。
近くには温泉街もあるので、ここで温泉が湧いていたとしても不思議はない。
5年前には気付かなかった小さな発見に嬉しくなる。
深かった谷が次第に浅くなり、やがて直ぐ横を川が流れるようになってくる。
何のためにかけられた橋なのか良く分からない水色の橋が、その川に架かっていた。
その先は林道もなくなって、歩くルートが分かりづらくなる。
川沿いに上流に向かえば良いのだが、雪がまだ少ないので下手をすると石と石の隙間に落ちてしまう恐れもある。
そこを避けて、苦労しながらコンクリート構造物の上によじ登ったりと、ちょっとしたアドベンチャー気分である。 |