上平沢川の流れに沿って続いていた林道は、途中から沢を離れ、等高線に沿うように山の斜面を巻きながら登っていく。
4年前の時は、そこで林道から離れて沢沿いの急斜面を苦労しながら登ったものである。
一般的なルートは、そのまま林道を進んで適当なところから林道をショートカットするのだが、その時はそれを知らずに急斜面をがむしゃらに登っていたのだ。
今回はショートカットしようにも、まだ雪が少なくて笹や潅木の茂った森の中へは入ることができず、遠回りになるけれど曲がりくねった林道上を素直に歩くしかなかった。
今年は春頃から朝のジョギングを続けていて、最近は月間で100キロ以上を走っているので体力には少し自信を持っていた。
「初心者向けの迷沢山程度なら苦も無く登れるはず」
そう思っていたのに、ここまでの疲労度は去年のシーズンと何の変わりも無さそうである。
途中で心拍数を計ってみたら120にまで上がっていた。
朝のランニング時の心拍数は130を越えるくらいで、そのペースで10キロ走ってもせいぜい1時間程度の運動にしかならない。
山スキーの時は、同じような心拍数で3時間は登り続けるのだから、きついのは当たり前である事にここでようやく気が付いたのである
送電線下の刈り跡へ出てきた。
このルートの中で唯一の滑りが楽しめる場所でもあるが、ここでもまだ雪が少なくて、下山時も林道を滑って下りるしかなさそうだ。
展望は開けたが、上空を覆っている雲は全然晴れてくる気配が無く、たまに陽が射すことはあっても、直ぐにまた雲に隠れてしまう。
登り始めてからここまで約2時間、まだ一度も休憩していなかった。
本来ならば1時間毎に休憩するのが良いのだろうが、我が家の場合、かみさんが休憩嫌いなので困るのである
私がザックを降ろし、座って休んでいる間も、かみさんはザックを背負ったままで座ろうともしない。
如何にも「早く歩き始めましょう!」って様子なので、私もおちおち休んでいられない。
かみさんに言わせると、「中途半端に休憩するよりはマイペースで登り続ける方が疲れない」とのことらしい。
山頂までもう少しのはずなので、ここでも休憩は取らずにそのまま進むことにした。
そこから先の林道は、ほぼ平坦と言っても良いくらいの緩やかな登りが続いている。
私の前に出たかみさんは、前を歩く障害物がなくなったので急にスピードを上げ、次第に疲れの出てきた私との間隔は見る見るうちに開いていく。
前方に小高く見えている丘が迷沢山の山頂だろうと思って歩いていくと、林道は右に大きくカーブしてその丘から逸れ始めた。
地図を見ると林道はほぼそのまま迷沢山山頂近くに続いているはずなので、どうも様子がおかしい。
前回は林道を経由せず、林間を抜けて真っ直ぐ山頂に向かった記憶があるので、これでは遠回りになってしまう。
しかし、かみさんはサッサと先に進んでいたので、私もその後を追いかけるしかなかった。
途中で立ち止まったかみさんにようやく追いつくと「どっちへ行けばいいの?」と聞いてきた。
それまで頼りにしていたトレースが吹き溜まりで消えてしまったらしい。
「道が分からないのなら、もっと前に止まれよな!」
置いていかれた口惜しさもあって、声を荒げる私。
「リボンが付いているからこっちで良いんじゃない?」
確かに、林道の右側の斜面の潅木に赤いテープが巻かれている。
「えっ?こっちが山頂なの???」
まさか山頂が何処か分からなくなるとは思ってもいなかったので、GPSにも山頂の位置は落としていなかったのだ。
半信半疑でそこを登っていくと、消えていたトレースも再び現れて、ここで間違いなさそうな事をようやく実感できた。
そうして登り始めてから2時間40分で山頂に到着。
潅木もまだ雪の上に頭を出していて、4年前の時とは随分様子が違っていた。
標識があるわけでもなく、周りの山々も雲に隠れて、記念写真を撮ろうにもカメラを向ける場所も見つからない。
暖かければ山頂で昼食を食べる予定だったけれど、寒くてとてもそんな気にもなれない。
適当にカメラのシャッターを切って、早々滑り降りることにする。
(家に帰ってから確認すると、4年前の時とは反対側から山頂に登っていたのである。持参した地図に載っている林道も実際とは違うルートで描かれていて、これでは分からないはずである。)
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