カヌークラブの新年会でニセコの五色温泉に泊まり、その翌日にアンヌプリに登ることとなる。
雪不足が続いていたニセコの山々もここ数日の降雪で一気に積雪が増え、私達が泊まった一晩でも更に30センチ近くの新雪が新たに降り積もっていた。
雪に埋もれた車を掘り出していると、雲の切れ間からアンヌプリの山頂が姿を現す。
「これは期待できそうだ」と喜んでいたら、宿を出る頃には再び激しく雪が降り始めた。
除雪の終点まで車を移動させる。
準備をしている間にも雪がワサワサと降ってきて、あっと言う間に車の中まで雪まみれである。
滑ることよりも風景を楽しむのが我が家の山スキーなので、こんな状況で登るなんて、我が家にとっては絶対にあり得ない話しである。
でも、ここまできて「やっぱり止めます」とも言い出しづらく、皆の後に続いてトボトボと登り始めた。
彼らが目指すのはアンヌプリの北斜面。
スキー場側から山頂へ登るためのゲートが開くのは昼頃になるらしいと「ニセコなだれ情報」で確認し、その前に誰も滑っていない斜面を楽しもうとの魂胆らしい。
冬のアンヌプリは、かなり昔にスキー場側から一度登った事があるだけで、五色温泉側から登るのは初めてである。
一週間ほど前にはこのアンヌプリで雪崩による死者も出ていて、五色温泉側の斜面でも以前に雪崩で死んだ人がいると誰かが話していた。
降りしきる雪で見通しも全く利かず、他のメンバーを頼りにして、その後を付いて行くしかない。
しかし、他のメンバーも、あまり頼りにならない事が次第に分かってきた。
目的とする北斜面へのルートを、はっきりと把握している人間が誰もいないのである。
「この尾根で良いんだよな?」
「いや、もう一つ向こうの尾根でないのか?」
「もう、通り過ぎたんじゃないですか?」
「こんな景色じゃなかった気がするけどな〜?」
「ここを登ったのはもう20年以上前になるし・・・」
この人達を信じて付いてきたのは大きな間違いだったのじゃないかと、次第に不安になってくる。
10人のパーティーでラッセル役を交代しながら登り続ける。
私に順番が回ってきた時、その雪の深さに驚いた。
深いところでは太腿まで埋ってしまうのだ。
ラッセルには少し自信があったけれど、これでは体力が続かない。
もしも4、5人のパーティーだったとしたら、とてもアンヌプリの山頂まではたどり着けないだろう。
相変わらず北斜面へのルートは定まらずにいたが、途中で樹木の無い斜面に出てきて、ここを滑るのも良さそうだとの意見があって、その斜面に沿って登ることになる。
先頭に出たS藤さんが、「これじゃあ高度を稼げない」と言って、急に登る角度をきつくしてきた。
確かにここまでは殆ど汗もかかずに登ってきていたが、私にとってはそれくらいがちょうど良かったのだ。
S藤さんのトレース従って登っていくと、体力の消耗が激しく、一気に汗も吹き出てきた。
3度目の先頭を努めるが、ラッセル役も長くは続けられない。
続いて前に出たかみさんがそれまで温存していたパワーを一気に開放し、皆を驚かせる。
誰かが止めないと、そのまま一気に山頂まで登ってしまうんじゃないかと心配になったが、さすがのかみさんも何時もの様にはいかなかった。
山頂が近づくに従って更に傾斜はきつくなり、ブッシュも出てきて先頭があずり始めた。
風も急に強まり、I上さんから「もうこの辺で止めよう」と声が上がる。
その言葉が、涙が出るほど嬉しかった。
登り始めてからずーっと、誰かがそう言ってくれるのをひたすら待ち続けていたのである。
強風で吹き飛ばされそうになりながらスキー板のシールを剥がす。
先に滑り始めたI上さんが雪煙の中に消えていく。
皆からはぐれたら大変なので私もその後に続いたが、へっぴり腰なので直ぐに雪に足を取られて尻餅をついてしまう。
でも、これだけの深雪の中でも結構滑れそうな感触があり、立ち上がった後は、びくびくしないで滑ることにした。
すると、深雪の中でも普通にスキー操作ができて、まるで宙に浮いているような感覚に囚われる。
「これがパウダーの魅力なんだ」と思った瞬間、自分の巻き上げる雪煙を頭から浴びて目の前が真っ白になる。
メガネが雪まみれになってしまったのだ。
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