時々、木の枝に積もっていた雪が、音も無く、真っ白な滝のようになって流れ落ちる光景に出くわす。
運悪くその下にいたりしたら、全身雪まみれになってしまいそうである。
その程度なら笑って済ませれるけれど、大きな雪の塊もそこら中に転がっていて、それらも同じように木の上から落ちてきたもののようだ。
ストックで突いてみると、かなりの硬さである。それが頭の上に落ちてくることを想像すると、ぞっとしてしまう。真面目にヘルメットが欲しくなってきた。
6年前の台風18号で倒れたと言われる倒木も多い。
大きな雪山の中には根返りで倒れた樹木の根株が隠れているのだろう。
それらを避けながら登っていく。
アップダウンも多いので、下山時にここを滑り降りるのに苦労しそうだ。
太陽の陽射しが沢の中にまで射し込んで来た。
その程度では冷え込んだ今朝の空気は温まらないけれど、指先の痛みはようやく和らいできた。
途中でスノーシューの男性二人連れに追い越される。
登り始める時は、暫くの間は誰も来ないような様子だったけれど、ここまで随分と速いペースで登ってきたようだ。
この様な場所を登る時は小回りの利くスノーシューの方が良いのかも知れない。
沢は次第に狭まり、両側から急な山の斜面が迫ってくる。
その斜面には、雪の塊が転がり落ちた跡が幾筋も付いていた。
もう少し気温が上がると、小さな雪玉がその斜面を転がり落ちる間に、まるでロールケーキのようになっている楽しい光景が見られる。
しかし、中には巨大な塊が転がり落ちてくることもありそうで、これもまた恐ろしそうである。
今日の気温が低いことに感謝をした方が良さそうだ。
次第に周りの風景も、その白さを増してきた
周辺の木々も、その上に乗せている雪の重みが更に増してきているように見える。
眺めの良い場所で一休みしていると、一人の男性が追い抜いていったが、その人もスノーシューである。
ここは本当は、山スキーで登るようなフィールドではないのではと心配になってきてしまう。
再び歩き始めてしばらく進むと、V字谷の奥に山小屋が見えてきた。冷水小屋である。
その前で休んでいた先程の男性二人連れを追い越して、先へと進む。
そこから先のトレースは殆ど消えかけていて、ラッセルしながら進まなければならなくなった。
次第に傾斜もきつくなり、再び登り始めた二人連れが私達の後を追うように登ってきていた。
直ぐに道を譲るとラッセルするのを避けているように思われそうなので、無理をして先に進む。
マイペースで登れないので、後ろから付いて来られるのはどうも苦手である。
谷が更に狭まるところまでやって来て、エネルギーが切れてしまった。
素直に先を譲ることにする。
話しを聞くと、この先が一番の難所になっていて、その後は楽に登れるとのこと。
その難所の様子はネットで調べてはいたけれど、雪の無い時期は多分そこは、滝が流れ落ちているのだろう。
先の二人の様子を見守っていると、途中で一人が動けなくなって、かなり苦労しているようだ。
スノーシューでそれなのだから、スキーで登るのは無理かもしれない。
二人の姿が見えなくなったところで、私達もその難所にチャレンジする。ヒールを固定して横向きに登ってみたが、傾斜がきつすぎて滑り落ちてしまう。
諦めて、スキーを脱いでつぼ足で登ってみると、何の苦労も無く滝の上まで上がる事ができた。
かみさんはそこで直ぐにスキーを履いているけれど、まだその先も急そうなので、私はもう少しつぼ足のまま登ることにする。
するとやっぱり、2段目の滝が待ち受けていた。
かみさんは、岩に挟まれたそこの狭い隙間をスキーを履いたまま強引に登ってしまい、私を呆れさせる。
滝を登り終えると風景が一変した。
長い谷を抜け出して、見晴らしも良くなってくる。
分厚い雪のコートを着込んだトドマツやダケカンバが私達の周りを取り囲む。
それぞれが個性的なファッションをしているので見飽きることが無い。
樹木越しに遠くの山並みも見えてくる。
昨日のトレースは完全に消えてなくなり、先の二人連れが森の中に新たに描いたトレースの中をありがたく歩かせてもらう。
森を抜けると真っ白な斜面が目の前に広がっていた。
そこを登れば山頂へと続く緩やかな尾根に出られるはずだ。
尾根沿いには雪庇ができていて、それに沿うように生えているダケカンバが逆光の中に浮かび上がって美しい。
枝数の少ない1本のダケカンバ、両腕を広げるように立っている姿がとてもユーモラスだ。
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