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当別丸山(2008/02/27)

後悔先に立たず


 せっかくの休みなのに、朝から吹雪模様の生憎の天気だった。
 札幌から北の方や空知にかけては今日は晴れの予報になっているはずなのに、しばらく様子を見ても一向に晴れそうな気配がない。
 でも、気象庁のレーダー画面を見ていると雪雲は積丹方面に流れて行ってるので、次第に晴れてきそうである。
 この日のお出かけはほとんど諦めかけていたけれど、8時半頃から空も明るくなってきて、急遽当別町の当別丸山へ行くことに決めて、大急ぎで準備をする。
 何とか9時前には家を出られたけれど、山スキーに出かけるには少し遅すぎる時間である。それでも、当別丸山は登るのに2時間もかからないような山なので、この時間でも何とか明るいうちには帰って来られそうだ。

 札幌を出ると直ぐに、素晴らしい青空が広がってきた。これならばもっと早めに決断していれば良かったと、後悔する。
 どうも最近は、天気が悪いと直ぐに心が萎えてしまう傾向にある。全てを「これも年のせいだ」とこじつけてしまうのは嫌いだけれど、その影響は否定しがたい気がする。
 道道28号を北上していくと、やがて神居尻山やピンネシリの姿が前方に見えてくる。紺碧の空を背景にして、真っ白に雪を被ったその姿は本感動的に美しい。
 そして目的の当別丸山の姿が道路の正面に見えてきた。
 こちらの方は山と言うよりなだらかな丘にしか見えず、その姿は美しくも何とも無く、ただ見ただけではそこに登りたいと言った欲求も湧いてこない。
 でも、そんな見た目がパッとしない当別丸山だけれど、頂上に立てばなかなかの展望を楽しむことができるのだ。

神居尻山 当別丸山
美しい神居尻山 あまり美しくない当別丸山

 駐車スペースが無いので、路肩の雪山ギリギリに車を寄せて駐車する。それまで走ってきた道路は両側に雪山が壁のようにそそり立っていたので、まずはそこを登るのに苦労しそうだと覚悟していたけれど、何故かその付近だけは雪山ができていなくて、何の苦労もせずに雪原の上に立つことができた。
スタート そこから畑を横切り、橋を渡って林道沿いに少し進む。そして適当な場所から尾根に取り付く、と北海道雪山ガイドに書いてあり、去年ここを登った時もその通りに適当な場所から取り付いて失敗していた。
 取り付いた場所が急すぎて登ることができず、一旦下ってまた別の場所から登ることになったのである。
 今年はその轍を踏まないように、じっくりと斜面を見定めて登る場所を探す。
 やっぱり去年と同じ尾根の先端部分しか登れそうな場所が見つからず、そこから尾根に取り付いた。
 少し登ってからかみさんが「このまま尾根の上を登れば良いんじゃない」と言ってきたが、そこは私にとって急すぎるし、沢に落ち込む急斜面をトラバース気味に登っていくことにした。
 そのまま真直ぐに尾根の上まで登れれば良いのだけれど、意地悪するようにそのルート上に立木が待ち構えていたりする。
尾根の上に出られた 苦労してその立木の枝を払い避けながら登っていると、後ろから付いてくるかみさんが「なんでわざわざこんなところを登るのよ!」と文句を言ってくる。
 そんなことを言われても、そこを上にかわすには急すぎて登れないし、下にかわすとそこも急すぎて沢に転落しそうだし、とにもかくにもその立木に向かって真直ぐ進むルートしか私の頭の中には見えないのである。
 やがて斜面は更に急になってそのまま進むこともできなくなり、やむを得ずキックターンで向きを変える。
 何度かキックターンを繰り返して、ようやく尾根の上に出ることができた。ここから先にはそれほど急な場所も無いはずで、最初に一番の難関が待ち構えているのである。
 今年は去年ほど苦労せずに登れるだろうと思っていたが、やっぱり今年もここで一苦労してしてしまった。

黄金山 木々の間から三角に尖った姿が特徴の黄金山が見えている。この辺りの山に登る時は、黄金山の姿が見えると何故か嬉しくなってしまう。その何処と無くユーモラスな姿に親しみを感じるからだろうか。
 そこからしばらくは細い尾根の上をアップダウンを繰り返しながら登っていく。
 周囲の木々は二次林の細い樹木が多いけれど、尾根の上の所々に伐採を免れたミズナラやトドマツの巨木が悠然と枝を広げていて、その姿に心を和まされる。
 周りの木々が全て切り倒される中で、何故こうして尾根の上の樹木だけが残されたのだろう。林業的な理由があるのか、それともただ単に、伐採していた作業員が尾根の上にポツン木が1本生えている光景が気に入って残しただけなのだろうか。
 そんなことを考えながら登り続ける。
 尾根の上なので眺めも良く、道路を挟んだ反対側の別狩岳の姿も見渡せる。
 その山も北海道雪山ガイドに初級向けの山として紹介されているけれど、ここから見る山容はなかなか険しそうである。


ミズナラの巨木
何してる?

尾根を登る
トドマツの間を抜けて尾根を登る

 尾根を登り終わると林道に出てくる。
 そこからはもう当別丸山の山頂が間近に迫って見える。もっとも、何処が山頂なのか分からないような山なので、正確に言うと山頂へ続く急斜面の壁が見えているだけである。
 林道を少し歩いてから、そのまま山頂まで続いている尾根に取り付いた。
 ここもシラカバやミズナラの巨木が点在して、登るのが楽しい斜面である。
 上空にはまだ青空が広がっているけれど、若干雲が増えてきたようなのが気に入らない。
 前回登った春香山でも途中から曇ってしまったし、去年この当別丸山に登った時も頂上へ着いた途端に雲に包まれ横殴りの雪まで降り出してきた。
 そんなことがあるものだから、少し雲が多くなってきただけで不安が増してくるのである。

林道に出る 山頂へ続く尾根
林道に出た 山頂へ続く尾根を登る

大きな木が多い斜面
大きな木の間を縫いながら登る

 雪山ガイドでは雪崩を避けて左側から回り込むように山頂を目指すと書かれていて、去年もそのルートで登っていた。
ところが先を歩いているかみさんは、そんなことお構い無しに山頂を目指して真直ぐに登り続けている。
 後ろから「左だぞ!」と声をかけて方向を修正させたけれど、去年は雪庇が張り出して近づくのも怖かったような斜面が、今年はそれほど恐ろしげにも見えない。
 「これなら登れるかな?」
 「ほらね!だから真直ぐに登っていたのに!」と文句を言うかみさん。
 今度は私が前に出て、慎重にルートを決めながら登っていく。
 するとかみさんが後ろから「どっちに行くの!テープはこっちに付いているわよ!」
 「分かってる!」
 冬山ではルートを見失わないように、木の枝にテープを巻いたりして目印にするのだけれど、かみさんはそのテープが絶対ものであると考えているらしい。
 確かに初心者の私達にとっては赤いテープを見ると安心してしまうけれど、それはあくまでも他人が付けた目印でしかなく、何時付けられたものか、どんなレベルの人が付けたものかも分かりはしない。
 最後は自分の判断でルートを決めなければならないのだ。
 私が途中で方向転換しようとすると、またかみさんが後ろから「そのまま真直ぐ進んだほうが良いんじゃないの!」
 さすがに頭にきて、「それなら好きなように登れば良いだろう!」と声を荒げてかみさんを先に登らせる。

先を登るかみさん 雪崩の恐れもある斜面
かみさんを先に行かせる 雪崩の恐れもある斜面

 急な斜面に入り込むのは気が進まなかったけれど、もう勝手にしろと言う気分だった。
 崩れた雪が足元から急斜面をコロコロと転がり落ちていく。
 次第に不安になってきたのか、途中で立ち止まっていたかみさんが後ろを振り向き「どっちに登れば良いの?」と聞いてきた。
 「そんなこと知るか!」と冷たく突き放す。
 冷静な判断を必要とする登山中にこんな喧嘩をしていては駄目だと思うけれど、夫婦登山は大体がこんなものだろう。
 かみさんは「こっちが良いんじゃない?」とキックターンで方向転換して登り続ける。
 そして見覚えのある幼木のシラカバ林が見えてきた。どうやら無事に頂上までたどり着いたようである。
 「ほらね!やっぱりこれで良かったでしょ!」と得意顔のかみさん。これにはしぶしぶと同意するしかなかった。
 頂上とは言っても当別丸山の本当の頂上はもう少し先である。シラカバ林の中を抜けてその先の小高い丘を登るとそこが頂上である。

急斜面を登りきる 本物の山頂へ
急斜面を登りきる この先に本物の山頂が

 かなり雲が増えてきたけれど、この山での一番の見所である頂上からの神居尻山の眺めはかろうじて楽しむことができた。
 ただ、上空には青空が広がっているものの、太陽が雲に隠されて周りの風景もくすんで見えてしまう。
 北の方の空はもう完全に雲に覆われ、そこにあるはずの増毛の山並みは白い闇の中だ。登ってくる途中で見えていた黄金山の姿も何処にもない。
 冷たい風を避けられるような場所を探して昼食にする。その時だけ、暖かな陽射しに包まれたのは嬉しかった。


頂上から見る神居尻山
山頂から見る神居尻山

別狩岳方向の眺め
別狩岳方向の眺め

日射しを浴びながら昼食 スノーエンジェル
暖かな日射しの下での昼食 かみさんが作ったスノーエンジェル

 食事が終われば後は滑り降りるだけである。
 最初は何も考えずに滑り始めたけれど、GPSに登録してあった去年の下りのルートを確認すると、それからは随分離れていることに気が付いた。
 目の前の斜面を滑りたい気持ちをぐっと堪えながらトラバース気味に滑って行って、ようやくGPSのルートと現在地が重なるところまでたどり着く。そこはもう一番楽しい斜面が終わってしまったところで、その先は林間の緩やかな斜面が続いているだけだ。
 ちょっと残念だったけれど、違う方向に滑り降りる前に気が付いただけでも良しとしなければならないだろう。
 一気に滑り降りてしまった後では登り返すのも大変で、そのまま無理して下りながら戻ろうとすると道に迷ってしまうのである。
 登る時の南斜面は太陽の日差しを受けて雪も解けてきていたけれど、こちらの沢地の林間部分はまだフワフワのパウダーである。
 傾斜は緩いものの気持ち良く滑り降りられる。
 そして途中で林道にぶつかって、後はその林道をずーっと下ることになる。去年はそこを苦も無く滑り降りたけれど、今回はトレースが無いのでラッセルしながら歩かなければならない。少しくらい傾斜があっても、雪が深くて全く滑られないのだ。
 今回は最後のこの林道歩きが一番きつかった気がする。
 後で考えてみれば、最初から尾根に取り付いたりせずにこの林道を登ってきていれば、尾根の急な登りに苦労することも無く、帰りもそのトレースの中を楽に滑り降りることができたのである。
 何でそんな簡単なことに気が付かなかったのだろうと、自分が情けなくなってしまった。

林間の滑り 辛い林道歩き
林間を気持ちよく滑り降りる この林道歩きがきつかった

 それにしてもこの山では、動物の足跡をほとんど見かけなかった。たまに数日前に付けられたようなウサギの足跡があるくらいである。
 そんなことを話しながら車を走らせていると、前方の道路の真ん中を一生懸命走っている動物の姿に気が着いた。
アライグマ 「何?あれ?猫じゃないの?」
 「まさか!あれは犬だろう!」
 でも何かシルエットがちょっと変わっているようだ。
 もしかしたらイタチかもしれないと思って、車のスピードを緩めてゆっくりとその動物に近づいていく。
 そしてその横まで追いついて車を停めると、相手も立ち止まってこちらの方に顔を向けた。
 何とそれはアライグマだった。慌てて雪山に駆け上り逃げていく姿が、何ともユーモラスだ。
 北海道でも野生化したアライグマが増えていて農業被害も深刻になってきているけれど、その姿を見たのはこれが初めてだった。
 何時も見られる動物達の足跡がなくて、初めて見るアライグマに道路の真ん中で出会うのだから、何か不思議な感じである。
 ちょっとした「おまけ」の付いた今回の山行であった。


駐車場所 林道合流 本物の山頂

0:55

1:00
距離:2.9km 標高差:314m



ルート図はこちら


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