今年に入ってから連続6週目の山スキー行、待ちに待ったピーカンの青空が朝から広がっていた。
昨シーズン、山スキーを始めたばかりで最初に登った山らしい山が朝里岳。その時が素晴らしい青空だったものだから、冬山に登れば何時でもその時のような素晴らしい風景を楽しめるものだと思い込んでしまった。
ところが、本格的に山スキーを始めた今シーズンは一度もそんな天気に恵まれることなく、苦労して登った頂上からの風景は何時も半分ほどが雲に隠され、何とも味気ないものばかりである。
真っ青な空を背景に枝先まで樹氷に覆われた真っ白な樹木が大きく枝を広げ、遠くの山並みの白い稜線が青空との境界をくっきりと描き出す、そんな素晴らしい光景と一年ぶりに再会できる期待に胸を膨らませ、ルンルン気分で自宅を出発した。
車で走っていても、遠くに見える真っ白な山の姿ばかりに視線が行ってしまう。定山渓に近づくにしたがって目的の山の方向に雲がかかっているのが見えてきたが、それも日中には晴れてくるだろうと気にもならない。
今回は定山渓の豊羽鉱山から千尺高地へ登る予定である。先週はここから大沼山の方へ登っているが、千尺高地は登り口がそことは違って無意根山荘跡から登るようになる。駐車場所なども先週来た時に確認済みで、除雪終点の場所が広めに開けられているので、後から来る車の邪魔にならないように、端ギリギリに寄せて駐車する。
家を出た時には雲一つない青空だったのに、その空はすっかり雲に覆われてしまっていた。それでも、雲が薄くなっているところからは青空も透けて見え、登っている最中にはその雲も消えて無くなりそうだ。
我が家の他に3組ほどが準備をしていたが、一番最初に準備の整った私達が先にスタートすることになってしまった。。
最初にスキー場跡のゲレンデを登る。
ここは何時ごろまでスキー場として機能していたのだろう?茶色く錆付いたリフトの支柱がそのまま残され、ゲレンデ部分ではあちらこちらで潅木が背を伸ばしつつある。
トレースの付けられていない真っ白な斜面、まずはここを登って途中から無意根山への登山道を進むと雪山ガイドに書いてある。私が最初に付けるトレースを他のパーティーが登ってくると思うと、ちょっと緊張してしまう。斜面をジグザグに登るのだけれど、自分にとって登りやすい角度よりも、無理をしてちょっと急なトレースを付けてしまった。
こんなところで見栄を張ってもしょうがないのだけれど、自分が先頭と言うのはやっぱり落ち着かないものである。振り返ると、そのトレースを二人連れの男性が登ってくるのが見える。
登山道の入り口が分からないので適当なところから林の中へ入ってみると、少し登り過ぎてはいたけれど、ちょうど尾根の上に出ることができた。
そこには、殆ど雪に埋もれているけれど少しだけくぼんだトレースの跡があったので、これから先はルートを気にすることなく登ることができそうだ。
これまでの失敗の経験から、今回は頻繁に地形図を見ながら自分達の登っている場所を確認するようにした。周囲の地形と等高線の変化する様子が次第に連動して考えられるようになってきた気がする。
GPSでのチェックも怠らないようにする。私の場合、GPSが衛星の電波をキャッチしやすいようにザックのベルトの肩の部分に小さなケースに入れて取り付けているのだけれど、これの出し入れが結構面倒くさい。もっと簡単にGPSをチェックできるような取り付け方法を考え出したいものである。
次第に雲も取れて、青空も覗いてきた。雪面に映る森の影が、春の暖かさを感じさせてくれる。
途中の急な斜面を登り終えたところで一息付いていると、後続の男性二人連れが追いついてきた。
ここまでラッセル役としてかなり頑張ったつもりなので、先に行ってもらうことにする。
水分を補給し、今度はかみさんを先に行かせて再び歩き始める。
今まで私の後ろから遅いペースに合わせてトロトロと歩いていたかみさんは、リードを外された猟犬、いや、檻から脱走した猪のように突進し始めた。
ところが、先に行ってもらった男性二人のペースが思いのほか遅かった。
このままでは直ぐにかみさんが追いついてしまい、遅い車の後ろにつけてウォンウォンとエンジンの空ぶかしをする暴走族のように、前の二人を煽り始めそうだ。
慌ててかみさんに手綱を付け直し、再び私の後ろから大人しく歩かせることにした。
先週の大沼山に登った時よりも林間を歩くことが多く、なかなか回りの山の様子が見えない。
ようやく見晴らしの良い場所に出てきたが、余市岳は今回も山頂付近が雲に隠れてしまっている。
頂上に着く頃には雲も取れて、周囲の山々が青空の中にくっきりと浮かんで見える予定なのに、どうも空模様がパッとしない。
男性二人連れが休憩していたので、再び私達が先に進むことにする。
夏の登山道に沿って登るので、樹木が邪魔になることも無く歩きやすい。
途中の844mのピークも、その登山道に沿って巻きながら通過する。そしてそのピークを過ぎたところで、急に樹木がまばらになり、斜面もきつくなっていた。
そのために何処が登山道か分からなくなり、僅かなトレース跡も消えてしまっていたので、登る方向を見失ってしまう。
地形図とGPSを確認していると、後ろから男性が一人追いついてきて、「ラッセルありがとうございます。行けるところまで行ってみます。」と言ってそのまま先に登って行ってくれた。
私達が登り始める時には姿を見かけなかったので、かなり速いペースでここまで登ってきたのだろう。
如何にもベテランらしい雰囲気を持った人で、その登っていく姿も、決して早くは無いけれど全く同じペースで一歩一歩確実に雪を踏みしめ、気が付くといつの間にかはるか先まで進んでいると言った感じである。
ただ雪の上を歩くだけなのに、無駄の無い動きと言うか、私達とは全くレベルが違って見える。
安心して、その後について登らせてもらう。
これならば、かみさんの馬力をもってしても、追いついて後ろから煽りまくる心配も無さそうなので、先に行かせてやることにした。
しばらく行くと千尺高地の山頂らしい姿が前方に見えてきた。山頂と言っても、千尺高地は尾根のピークのような場所なので、尾根の連なりが見えるだけである。
ここまでかかった時間は1時間10分ほどで、結構良いペースで登ってきている。これならば軽く2時間を切るくらいで山頂に達することができそうだ。
しかし、天気のほうは回復するどころか確実に悪化してきている様子だった。天気予報では今日も晴れのち雪になっていたが、天気が崩れるのは夜になってからのはずである。日中は青空のまま経過すると思っていたのに、予想が外れてしまったみたいだ。
そこからは大きく西に回りこみながらピークを目指すことになる。
尾根に上る最後の斜面の前で、先ほどのベテラン風男性が休憩していた。かみさんもその手前で立ち止まったが、今度は私達が先を歩かなくてはと言った義務感に駆られて、無謀にもそのまま男性を追い越してしまった。
「このまま真直ぐで良いんですよね?」と男性に確認すると、「はい、ただ左の谷に入らないように気をつけてください。」と的確なアドバイスをしてくれた。
せっかく追い越したのだから、直ぐに追いつかれてしまっても格好悪いので、ややペース上げる。傾斜も急なのでジグザグに登らなければならない。
やっとその斜面を登りきった時には、無理をしすぎて一気に体力を消耗してしまった感じである。
風が強くなってきたのでそこでジャケットを着込む。
その間に先ほどの男性が先に登って行った。続いて男性二人連れの一人の方が私達の前を通り過ぎていく。もう一人はかなり遅れているようである。
お茶を飲んで一休みしていると、今度は新たに夫婦連れが登ってきて、先に行ってしまった。
遅れていた二人連れのもう一人もその後を登っていった。
べつに競争して登っているわけではないのだけれど、せっかく先頭のほうで登っていたのにこれだけ追い抜かれてしまうと、気分は良くない。
再び私達も登り始める。
天気の回復はもう完全に望めない。横殴りの雪が吹き付けてくるような状況である。
尾根の上に出てしまえば山頂までは直ぐだと思っていたけれど、まだ距離も高度差も結構残っていた。かみさんはいつもの調子でどんどんと先へ上って行ってしまう。また、私だけが取り残されてしまった感じだ。
足取りが急に重たくなってくる。考えてみると、私の場合、何時も最後の方にはこんな状態になっている気がする。
多分、2時間近く経過したところで急にエネルギーが切れてしまうのだろう。エネルギー切れを起こさないように、途中での栄養補給をもっと考えた方が良いのかも知れない。
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