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塩谷丸山(2007/01/13)

勘違いして夏道登り


 去年の暮れ、かみさん用の山スキーや靴一式を購入し、それにプラスしてモンベルのゴアテックスのジャケットも夫婦そろって購入。
 随分羽振りが良いなと言われそうだが、現在着ているスキー用のジャケットは二人とも15年以上も前に買ったもので、クリーニングに出してもくすんだ汚れが全然落ちないような代物である。中綿がたっぷりと入っていて暖かいのだけれど、山スキーの様に汗を沢山かくようなアクティビティーには全く向いてないのである。
 本格的に山スキーを始めようと考えているのだから、これくらいのささやかな贅沢は許してもらえるだろう。
 ようやく山スキー用の装備が二人とも整って、今シーズン初めてチャレンジする山は塩谷丸山に決めた。
 最近発行されたばかりの「北海道の雪山ガイド」では初級に位置づけられている山である。去年はニセコのチセヌプリやシャクナゲ岳にも登ったので、ちょっとここでは役不足かな〜なんて生意気なことを考え始めていた。
 JR塩谷駅横の踏切を渡り塩谷丸山登山口の看板に従って車を走らせていくと、やがて除雪終点の登山口に到着。
 インターネットで公開されている塩谷丸山のトラックデータを地形図の上に落として、それをプリントしたものを用意してきていたが、GPSも持っているし、今回は地図を確認する必要も無いだろうとザックの中に入れたまま、準備を整えて直ぐにスタートしてしまった。
 ここでちょっとでも良いから一度地図を開いていれば良かったのに、と後になって後悔する事になるのである。

登山道を登る 昨シーズンは、かみさんはゲレンデスキー用の装備しかなかったので、私がかみさんのスキーを背負い、かみさんはゲレンデ用のスキー靴のままスノーシューを履いて山に登っていた。
 それが今回は、私は余計なものを背負わなくて良いし、かみさんはスノーシューよりも歩きやすいと、いたって快適である。
 普通のスキー靴は歩くだけでも大変なのに、そこにスノーシューを履くのだから、昨シーズンはそれでよく文句も言わずに一緒に行動していたものである。
 登山道には数日前にスノーシューで2、3名くらいが歩いたような跡が残っていた。
 スノーシューのトレースは微妙に蛇行しているので、それにあわせて歩くのは面倒だが、ラッセルしなくて済むのだから文句は言えない。
 林の中を通る登山道は徐々に傾斜が強くなってきて、早くも息切れがしてくる。
 ところで、帰りはここをどうやって滑り降りるのだろうと言う単純な疑問が湧いてきた。
 林の中に切り開かれた登山道は、幅が狭すぎてスキーで回転しながら降りることは無理である。
 その真ん中に細いトレースがあり、その中ではボーゲンもできない。直滑降でそこを滑ればスピードがつきすぎて立ち木にぶつかるまで止まらなくなりそうだ。
  外へ逃げようにも周りの樹木は密生していて、その中にはスキーでは入られない。
 これまで我が家が山スキーで登ったのはチセヌプリとか朝里岳とか、途中までリフトで登ってそこから先は殆ど森林限界を過ぎたようなところばかりだった。樹木が邪魔で滑られないなんて想定外である。
 まあ、降りるだけなら何とかなるだろうと、あまり深くは考えずに登り続ける。
 途中で樹木がまばらになり下界が見渡せる場所に出てきた。塩谷の港や赤岩などが見下ろせる。今日は天気が悪くてあまり見通しは利かないものの、朝から雪が降っていたことを考えればこれだけ回復してくれれば御の字だ。

塩谷の港が見える 次第に傾斜がきつくなる

 そこから先、さらに傾斜がきつくなり、登山道も山の斜面をジグザグに登るように続いている。雪も多くなってきて、スノーシューのトレースも深さが50cmくらいはありそうだ。
 そのトレースを山スキーで辿るのだけれど、傾斜がきつすぎるとシールを付けていてもズルズルと後ろに後退してしまっう。ストックで体を支えようとしても、深雪にズボズボと埋まってしまって力が入らない。
 そんなスノーシューのトレースに文句を言いたくなるけれど、登山道に沿って登っているのだからしょうがない。
 途中の方向転換する場所でとうとう行き詰ってしまった。
 かみさんは何とか登れたけれど、私は滑ってしまってどうやっても前に進めないのだ。両手両足を踏ん張った姿勢のまま、ズルズルと後ろに滑り落ちていくのはとっても惨めな気持ちにさせられる。
 とうとうコースから外れて、林の中を登ることにした。その辺りでは藪も少しは薄くなっていたので、何とか樹木の間を縫いながらでも歩くことができるのだ。
 そうしてやっと一番傾斜のきついところを登りきることができた。
 そこで小休止。
 ジャケットの下に着ていたものは汗でぐっしょりと濡れている。全て化繊のウェアとは言っても、これだけ汗をかいてしまうとどうしようもない。
 体力的にもかなり消耗している。
 これで本当に初級レベルの山なのだろうか。自分達のレベルの低さにちょっとガッカリしてしまった。
 今シーズン中には余市岳にも登ってみようと考えていたけれど、「北海道雪山ガイド」では余市岳は上級レベルの山になっている。初級レベルの塩谷丸山でこれだけ手こずるのだから、とてもじゃないが余市岳に登るなんて無理な話だ。

真っ白な風景 少しの休息で体力も回復してきたので、ウイダーinゼリーエネルギーをゴクリと飲み干して再び登り始める。
 周りの樹木は雪が降った直後のように真っ白に雪化粧して、久しぶりに見るような白一色の世界だ。
 傾斜も次第に緩くなり、そんな風景に見とれながら登っていくと、ようやく樹林帯を抜けたようで、笹や潅木が所々で顔を出している緩やかな丘が広がっていた。
 もう少し雪が積もれば、そこも真っ白な雪原に変わるのだろう。
 その丘の向こうには空しか見えないので、「もしかしたらもう頂上?」と思ったけれど、GPSで確認すると山頂までまだ400mとなっていた。
 いつの間にか上空には雲が広がり、雪も舞い始めてきた。天気予報では曇りのち雪となっていたので、これから荒れてくるのかもしれない。
 急坂で踏ん張りすぎたせいか太股も痛くなってきていたし、その天候の悪化がこの辺りで引き返すための良い口実になりそうな気がしてきた。
 そんな弱気な心と、ここまで来て頂上まで登らずに引き返すのも情けないと思う気持ちがせめぎ合う中、体力の続く限りはもう少しこの丘を登ってみようと足を進める。
 やがて、灰色に曇った空と白く広がる丘とが交わる境目の線上に、新たな山のピークが浮かび上がって見えてきた。
 どうやらそれが塩谷丸山の頂上らしいが、まだ果てしなく遠くにあるような感じがする。とりあえずはその全貌が見えるところまで丘を登ってみることにした。
 頂上付近に5、6名のパーティーの姿が見える。私達が登って来たところには、そんな新しいトレースは何処にも見当たらなかったのに、彼らは一体何処からやって来たのだろうか。
 やっと丘の上までたどり着いたけれど、そこからは山頂が直ぐ近くに感じられる。ここまで着たのならば、もう頂上を目指すしかないだろう。立ち止まらずにそのまま歩き続けた。

丘の向こうに頂上が見える 頂上はこの上だ

 私は山登りの経験が殆ど無いので、山の上での距離感と言うものが全くつかめない。
 何時も車で移動して、山に来てもスキー場の高速リフトで麓から山頂近くまで一気に移動するものだから、遠くに見える山の上まで歩いて行くことを考えると、それが果てしない距離のように思えてしまうのだ。
 亀のようにゆっくりと歩いていても、あれほど遠くに見えていた山がいつの間にか目の前に迫ってきているというのは、結構新鮮な体験だった。
 最後の急な斜面も、邪魔な樹木が殆ど無いので自分のレベルに合わせてジグザグに登ることができる。心配していた天気もそれほど崩れること無く、ようやく山頂に到着した。
 出発してから2時間40分、雪山ガイドでは1時間55分と紹介されていたので、随分時間がかかったものである。これが多分、現在の我が家のレベルなのだろう。
 いくらか天候も回復して、内陸部はそれほど遠くまでの見通しは利かないものの積丹から小樽にかけての海岸線がとても美しく見える。
 先に頂上に来ていたパーティーが降りるところだったので、「どちらから登って来たのですか?」と聞いてみたところ、一瞬怪訝な表情を浮かべた後「夏の登山道じゃない方からです。」と答えてくれた。
 「へ〜、そんなルートもあるんだ。」と思いながら、冬の間はそちらのルートの方が一般的であるということに未だに気付いていない私達夫婦であった。

頂上に到着 頂上からの展望

 山頂から少し降りたところにちょうど風を遮れる場所があったので、そこで昼食にする。
 ジャケットを脱ぐと体から湯気が立上りそうなくらい汗をかいている。でも直ぐに体が冷えてくるので、フリースの上着を新たに着込むことになる。山スキーの時の体温調整は本当に難しい。
お食事タイム お湯を沸かしてカップ麺に注ぎ、ザックの中からいなりずしを取り出す。私のザックの一番下に入れてあったものだから、そのいなりずしは見事に潰れていて、「貴方に持たせたのが間違いだったわ」と言うかみさんの非難の視線を浴びることになった。
 昼食を終えていよいよ下山開始である。冬の雪山ではこのパウダースノーでの滑降を楽しみに登ってくるスキーヤーが多いのだろうが、我が家の場合はパウダーを楽しめるような技術も無いので、スキーは下山のためのただの道具といった感じである。
 思いっきり滑ってみたい気もするけれど、雪が少ないので笹がそこらで顔を出しているし、思わぬ場所で足を取られることもありそうだ。夫婦単独行動では怪我をするわけにもいかないので、慎重に滑らなければならない。
 深雪に慣れていないかみさんの様子を気にかけながら滑っていると、自分の方がしりもちをついてしまった。
 雪の中をもがきながら起き上がって再び滑り始めると、今度はかみさんがしりもちをついて雪の中でもがいている。
 真っ白な山肌に描かれた美しいシュプール。我が家が描くのは斜滑降にキックターンのジグザグの線で、とてもシュプールと呼べる代物ではない。おまけに所々にしりもちや、起き上がるのにもがいたグチャグチャの跡が残され、美しい雪山の風景を汚しまくって降りてくるのである。
 緩やかな丘の斜面は直滑降で一気に滑り降り、いよいよ問題の樹林帯に入る。
 スピードが出過ぎないように、下りもシールを付けて滑ることにする。
 登ってくる時に一苦労した急斜面は、とてもじゃないが登りのトレース跡を滑ることはできない。雪が少なくブッシュだらけの林間を、慎重にルートを選びながら、斜滑降、キックターンの繰り返しで滑る。
樹木の間を滑り降りる 下のほうまで降りてくると、樹木が密生していて林間部分を滑ることができなくなってきた。登ってくる時に心配していた場所である。
 登山道は斜面に直角に一直線に伸びていて、シールを付けていると言っても、トレースの中を滑るとスピードが出すぎるし、そもそもその細い幅の中では止まりようが無い。
 トレース横のわずかなスペースを滑るしかないが、雪が深くてボーゲンもできない。やや先の方に張り出した枝に向かって滑り降り、その枝につかまってブレーキをかけるといった、何とも情けない方法でやっとその区間をクリアすることができた。
 やっと登山口まで戻ってきた時は精根使い果たし、ヘロヘロの状態になっていた。
 これで初級レベルとは信じられないし、そもそもスキーで登るようなところなのだろうか。途中ですれ違った人もスノーシューだったし、滑る楽しみが無いのならばスノーシューで登った方がずーっと楽そうだ。
 それでも良い経験にはなっただろうと自分を納得させながら家に戻ってきて、今日の反省でもしようと改めて「北海道雪山ガイド」を手に取り、塩谷丸山のページを開き、そしてそこの地形図上に赤く示されたルートを見て愕然としてしまった。
 自分達が登ったのは夏の登山道、冬のルートは全然違う場所から登るようになっていたのだ。
 去年、定山渓国際スキー場のリゴンドラ終点から朝里岳に登り、帰りは自信満々でキロロスキー場のゴンドラ駅に向かって滑り降りた事件以来、かみさんの信頼を失っていたが、今回でさらにその信頼が失われたようである。

 今朝の話。
 塩谷に向かう途中、小樽を過ぎた辺りでかみさんが「あら?今日は手稲ネオパラに行くんじゃなかったの?」と言いだした。
 山スキーをするのならば、少なくとも出発前の十分な下調べと同行者との十分な打ち合わせを忘れてはならないのである。



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