北海道キャンプ場見聞録
青森・秋田の旅(奥入瀬渓流)
宇樽部キャンプ場(5月24日~25日)
朝のコーヒータイムを楽しんでから宇樽部キャンプ場の中を一回りしてみる。
湖畔にはツアー用のカナディアンカヌーが沢山置かれていた。
その中の何艇かに「とうろネイチャーセンター」の文字が残っていた。
釧路湿原の入り口である塘路湖の湖畔にある施設で、釧路川のツアーもやっている。
ツアー用に貰い受けたのだろうか。
直接は関係ないけれど、何となく北海道との繋がりがあるようで嬉しくなった。
湖畔に置かれたカヌーが気になる
この日は十和田湖畔の子ノ口からバスに乗って焼山まで移動し、そこから奥入瀬渓流沿いの遊歩道を歩いて湖まで戻ることにしていた。
子ノ口発のバスの時間は午前9時40分。
今朝はゆっくりできるな~と思いながら、バスの時刻表を見ていると、その時刻の横に※印が付いていた。
あれ?と思ってその説明を読むと、この時間は秋だけの季節限定運行と書かれていた。
それに気付かずにバス停に向かっていたら、計画が大幅に狂うところだった。
オートサイトとオートサイトの常設テント
気付くのが早かったのが幸いである。
午前8時前にキャンプ場を出て、8時半に焼山に到着。
ここから子ノ口まで歩いて、焼山まで戻ってくるバスの時間は12:13か14:13。
遊歩道の延長は14キロなので、その気になれば12:13発のバスに間に合うけれど、写真を撮りながらのんびりと歩いて14:13発のバスに乗るのが丁度良さそうだ。
焼山バス停近くの駐車場に車を停めて歩き始める。
遊歩道の地図がなかったので奥入瀬渓流館で貰おうと思ったが、9時からの営業なのでまだ開いていない。
隣の奥入瀬遊水館の方も同じ時間からの営業だったけれど、入り口が開いていたので勝手に入っていって地図をゲット。
トイレも済ませて、午前8時45分いよいよ奥入瀬渓流トレッキングのスタートだ。
この立派な銘板は焼山から1.4キロ地点
奥入瀬渓流館の隣に遊歩道の入口があった。
ガイドブック等では焼山のバス停がスタート地点になっているけれど、奥入瀬渓流館の前にもバス停があるので、ここからスタートの方が分かりやすい気もする。
そうは言っても、たかだか400m程度の差にすぎないのだが。
奥入瀬渓流には滝や、岩の絡んだ流れなど見どころが点在しているのだけれど、歩き始めて暫くはそんな見どころも少ない。
それでも退屈することはない。
巨木に見送られる
林床に咲くクルマバソウやズダヤクシュ、ミヤマカラマツなどの野の花。
名前を知っていたのはクルマバソウくらいだけれど、途中の案内板に写真入りの花の説明があったのは嬉しかった。
初夏に咲く花は地味なものばかりで、興味のない人は全く目にも止めないだろうが、植物好きな人間はそんな花を見るだけで楽しくなる。
ちょっと地味なズダヤクシュの花
新緑に染まった森の風景も美しい。
私がたまたま緑色の服を着ていたので、かみさんが「完全に森に同化してるわ」と笑う。
苔むした倒木、岩の上でも懸命に根を伸ばして生きている植物たち、健全な森の姿はそれだけで美しいものだ。
体が緑色に染まりそうだ
庭にもシダを植えているくらいにシダ好きな私なので、林床に広がるシダの群落にも心を癒やされる。
笹の蔓延る森よりも、シダに覆われた森の方が、格段に人の心を落ち着かせてくれる気がする。
そんな森の中に響くのはエゾハルゼミの鳴き声。
「東北で鳴いているのもエゾハルゼミなのだろうか?」と素朴な疑問を抱く。
途中でコンクリートの橋を渡る
川岸でツツジが花を咲かせていた。
緑一色の風景の中でオレンジ色の花が一際美しく見える。
オレンジの色が新鮮に感じる
川の流れ自体も、特に名前の付いていない場所でも、美しいことに変わりはない。
流れの中に点在する岩にも植物が根付き、まるで島のように見える。
これが奥入瀬渓流の特徴の一つでもあるだろう。
普通の川ならば、大雨による増水ですべて流されてしまうので、そんな岩の上で植物が育つのは難しい。
奥入瀬川は十和田湖を水源とする川なので、極端に増水することは少ないのだろう。
それなので、遊歩道も水辺の直ぐ近くに付けられ、渓流との一体感を感じることができるのだ。
川の中の石の上に植物が育っている
初めて、名前の付いている流れまでやって来た。
「三乱(さみだれ)の流れ」
流れが三つに分かれているのでそう名付けられたらしいが、何処がそれなのか良くわからない。
まあ、美しい流れであれば、名前などどうでも良いのだ。
この辺りが三乱の流れか?
昔、女盗賊が住んでいたと言われる石ヶ戸に到着。
3年前の東北の旅ではバスを利用して、石ヶ戸から雲井の滝までの2.8キロだけを歩いていた。
その時以来、何時かは奥入瀬渓流の全区間を歩いてみたいと考えるようになり、それが今回の旅での一番の目標となったのである。
この石の下に女盗賊が住んでいたと言われる
石ヶ戸から先は一度歩いたことがあるとは言え、奥入瀬の景勝ポイントが連続する場所で、前回とは逆方向に歩いたこともあり、全く新鮮な気持ちで見て回れた。
すぐに現れた石ヶ戸の瀬。
我が家の居間の壁には、3年前にここで撮った写真が飾られている。
今回はその写真を上回るような良い写真を撮ろうと、張り切って三脚も用意していた。
シャッタースピード1/3、拡大すると手ブレがひどい
しかし、写真を撮るのにいちいち三脚をセットするのも面倒である。
そのために手持ちで撮影したが、1/8秒位のスローシャッターでは、カメラの液晶で確認して良く撮れたと思っていても、後で拡大して見てみると手ブレしていてガッカリさせられるのだ。
シャッタースピード1/8、手持ち撮影ではこれくらいが限界
屏風岩や馬門岩などと名付けられた柱状節理の岩壁も奥入瀬渓流の見どころの一つである。
層雲峡の大函や小函の様な迫力のある風景ではないけれど、緑の木々越しに見える柱状節理の岩は奥入瀬らしい優しい風景を作り出している。
馬門岩に登ってみた
次に現れたのは阿修羅の流れ。
奥入瀬渓流を代表する景勝地とされている場所だ。
地形図を見ても史跡・名勝・天然記念物の記号がこの場所に記されている。
名前は恐ろしいけれど、岩の間を縫うように流れる川の様子は本当に美しい。
ただ、ここをカヌーで下ることを考えると、ちょっと恐ろしく思えてくる。
阿修羅の流れ?
そして午前11時50分、3年前に最後に訪れた雲井の滝までやって来た。
奥入瀬渓流から少し離れた場所にある滝だけれど、何度見ても美しい滝だ。
雲井の滝
そこから先は再び新たに歩く区間である。
白銀の流れ、白布の滝など、景勝ポイントを楽しみながら先へと進んでいく。
遊歩道沿いには「○○まで何キロ」と書かれた標識が所々に立っている。
途中までは「雲井の滝まで何キロ」となっていたのが、雲井の滝を過ぎると今度は「玉簾の滝まで何キロ」と変わってくる。
しかし、其れを目標に歩いていると現れたのは白糸の滝。
地図を見ると、玉簾の滝を既に通り過ぎていることに気がついた。
「あれ?そんな滝、あったっけ?」
地図を見ると道路の反対側にある滝のようだけれど、全く気が付かなかった。
車で通る時に改めて注意して探したけれど、最後まで玉簾の滝を見ることはできなかったのである。
川が遊歩道とほぼ同じ高さで流れている場所もある
本来は玉簾の滝を皮切りに、滝が連続して現れることから瀑布街道とも呼ばれている部分だけれど、見栄えのしない滝も多くて、看板がないと気づかずに通り過ぎてしまうことも。
滝よりも、大きな石を根で抱くように育っている樹木など、森の風景の方に目を取られる。
森の中に現れたゾウさん?
それでも、九段の滝は見応えがあった。
殆どの滝が遠くから眺めるだけなのに比べて、この滝は遊歩道が直ぐ近くまで伸びているので、余計に見栄えがするのだ。
九段の滝
そして瀑布街道の最後を締めくくるのが銚子大滝である。
奥入瀬川の水が7mの落差を一気に流れ落ちる様子は、さすがに迫力がある。
銚子大滝
最後の子ノ口水門で奥入瀬渓流は終りとなる。
水門から湖までの300mほどの区間は流れもほとんど無くなり、澄んだ水を通して川底がエメラルドグリーンに染まって見える。
このあたりの雰囲気は、支笏湖から千歳川が流れ出る部分の雰囲気に良く似ている。
十和田湖からの流れ出し部分
そうして午後1時55分、ゴールの子ノ口バス乗り場に到着。
歩いた距離は15.8キロ、奥入瀬渓流館横の入口からは5時間10分かかっていた。
焼山に戻るバスの時間は午後2時13分。
最初は余裕で間に合うと思っていたけれど、なんだかんだ言って結構ギリギリの時間になってしまった。
それだけ、途中で足を止めざるを得ない場所が多かったと言う事だろう。
焼山まで戻って、野の花焼山荘の温泉で汗を流す。
小さな宿だったけれど温泉も貸切で入れて快適だった。
良いお湯だった
キャンプ場まで戻ってくると、昨日よりもキャンパーが増えたようだ。
それでも、我が家のテントの周囲は空いたまま。
やっぱり、最初の選択は正しかったようだ。
湖畔サイトは昨日よりも賑わっていた
焚き火用の薪は十分に残っていたけれど、追加で少しだけ拾い集める。
相変わらず他のキャンパーは管理棟で薪を買っているようだけれど、そんな中で我が家の近くにテントを張っている若いカップルも薪を拾い集めていた。
ただし、拾っているのは女性の方である。
そこらをブラブラと散歩しては、帰りに女性の方だけが枯れ枝を何本か持っている。
彼女は良いキャンパーになることだろう。
今日も静かに夜は更けていった。
BE=PAL2021年11月号付録の火吹き棒が結構役に立っている