週末の天気は快晴、気がかりだった妻の母親の体調も安定して、覚悟を決めていた人事異動も拍子抜けしてしまうような結果に終わり、晴々とした気持ちでキャンプへ出かけることができる。
あまりにも好条件がそろいすぎて、出発前夜は興奮してなかなか寝付かれない。
もういい加減キャンプへ行くのも飽きてきそうなものだが、遠足前日の小学生みたいな気持ちが続く限りは、これからもキャンプへ出かけ続けるのだろう。
春の気配の訪れとともに気持ちもすっかり軟弱化してしまい、心の中に秘めていた「北海道内最積雪深極寒朱鞠内新規購入羽毛寝袋耐寒性能確認キャンプ」といった崇高な目的は完全に忘れ去ってしまっていた。
これまでの無駄なあがきはいったい何だったんだろう、と言った感じである。
今年になっての最高気温を確実に更新しそうな穏やかな天候の下、札幌を出発した。
途中の稲作地帯では融雪剤の散布も始まり黒々とした雪原が広がっているが、幌加内から北では2週間前に訪れた時とほとんど積雪も変わらず、真っ白な雪景色のままである。
それでも道路際の除雪でできた雪山は、春の日差しに照らされ少しずつ後退していっているようだ。
入り口手前の最後の坂を登り切ると、いつものように真っ白な朱鞠内湖の姿が目に飛び込んできた。
一昨年訪れた時とはちょっと様子が変わっていて、駐車場入り口に料金徴収所が作られ、管理も厳しくなっていた。
入漁料と駐車料金を払って、その料金徴収所の裏に車を留めさせてもらうことにする。
ちょっと利用しづらくなった感はあるが、一声かければ問題はない。
そこから我が家のいつもの雪中キャンプ用サイトまでは少し距離があるが、ソリに荷物を載せての運搬も楽しい作業だ。かなり荷物は減らしてきたつもりだけれど、それでも2往復しないとすべての荷物を運びきることはできない。
テントの設営が終わると早速ワカサギ釣りの準備である。
春の日差しを浴びながら、のんびりと雪の上でうたた寝でもしたい気分だが、朱鞠内湖でのワカサギ釣りを何よりも楽しみにしている妻のためにもテキパキと行動しなければならないのだ。
前の人が残していった穴がちょうど二つ開いている場所を見つけて、そこに釣り座を構える。
竿の準備をして、妻の竿の針に一つずつ餌を付けてやり(針も餌も小さいのでむちゃくちゃ面倒くさい)、それが終わると今度は自分の竿に餌を付け始め、すると横で妻が「手袋に針が引っかかって取れないー」と騒ぎ始めたので今度はそれを外すのに一苦労して、愛犬フウマがそこらの雪を掘り起こして何か食べようとしているので針でも飲み込んだら大変だと慌てて近くに繋ぎ止めて、ようやく穴の中に仕掛けを垂らすことができた。
ここでやっと念願のビールをグイッと飲むことができるわけだ。家族サービスも大変である。
一服しようとするとすぐに竿先がピクピクと震え、上げてみると綺麗なワカサギが2匹上がってきた。竿を下ろすとすぐに次のあたりがある。なかなかのんびりとさせてもらえない。
2時間半ほどで二人合わせて40数匹の釣果、夜のおかずにするにはちょうど良い量だ。数が釣れるのは早朝の時間帯みたいだが、午後から遊びで竿を出しても十分に楽しめるのが朱鞠内湖の良いところだ。
3月も末になると、6時頃でもまだ空は明るい。日中に解けた雪も徐々に表面が凍り始めた。
ガソリンランタンを忘れてきたことに気がつく。蛍光灯ランタンも持ってきたので別に不自由はしないが、ガソリンランタンは暖房器具としても結構役にたつのだ。ガスのヒーターだけではちょっと心細かったが、幸い気温もそれほど下がらなかったので、寒い思いはしなくてすんだ。
今回のキャンプでは、妻の提案で我が家の雪中キャンプとしては初めてイスを持ってきていた。
気温が低いと雪が固まらないのでイスの使用は無理だと思っていたのだが、日中の気温がプラスになると結構踏み固めることができて、夜になってそれが凍るとイスの使用も全く問題ない。
何と言っても雪面に直接座るのと比べて、その快適さは歴然としている。
雪中キャンプを始めたばかりの頃は、雪を掘ってイスやテーブルを作り、「わーい、楽ちいなー」なんて無邪気に楽しんでいたものだが、経験を重ねるにしたがって次第に安易な方向へ変わってきている気がする。
これを進化というのか堕落というのか、一体どちらなのだろう。
その夜はワカサギのから揚げと激辛キムチ鍋の豪華な夕食、気温も−5℃ほどで雪中キャンプの厳しさは何処にも感じられない。
ダウンのシュラフはとても暖かく、使い捨てカイロを中に入れていると暑すぎるくらいだ。
それと、今回のキャンプでは、ついに犬用シュラフまで登場してしまった。昔使っていたシュラフを半分に切って、フウマ用専用シュラフに加工したのだが、愛犬フウマも9才を過ぎてそろそろ老犬の部類に入ってきているので、あまり無理もさせられない。
それぞれのシュラフにくるまり、小さなテントの中でだんごの様になって 眠りについた。
朱鞠内湖の朝は釣り人の車の音で目が覚める。
冬の間は5時半に駐車場のゲートが開けられるので、5時頃にはもう車が集まってくるのだ。
広い湖上をそれぞれのポイント目指して、道具を積み込んだソリを引っ張って行く。
遠くのポイントまではスノーモービルで送迎もしてもらえる。
そんな、いつも通りの朱鞠内湖の朝の風景を眺めながら、私たちはのんびりと朝のコーヒーを味わった。
朝食を済ませてから周辺の森の中を散歩する。日中にもう少し雪が解けていると、それが固まって雪の上を埋まらずに歩くことができるようになるのだが、まだ表面しか凍っていないのでちょっと歩きづらい。
人間の方はスノーシューを履いているので大丈夫なのだが、フウマは厳しい状況だ。歩くたびに薄く凍った雪面を突き破る感じなので、新雪の中を歩くよりも大変そうである。
他の季節では近づけない様な場所でも、雪の上を歩いて自由に入って行ける。思わぬ場所で立派な巨木を発見したりと、冬ならではの楽しみである。
心地良い汗をかいてテントまで戻ってきた。
冬のキャンプはやっぱり最高である。
でも、非日常の世界が味わえる雪中キャンプも、我が家のキャンプの中では日常の風景になりつつあることがちょっとだけ気になる今日この頃である。
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