クラブの7月例会2日目は空知川を国体コースから下る。
昨日の大増水から一夜明けて、水の濁りはかなり取れてきていた。
水量も減ってきていたものの、それでも通常の状態よりはかなり多く、我が家が過去に下った中では一番の水量かもしれない。
昨日大活躍したC葉さんとhaneさんも引き続き参加し、昨日は参加を見合わせていたファルトに乗るK鍋さん夫婦も、今日の区間なら大丈夫と言われてこの日の朝に駆けつけてきた。
余談だが、K鍋さん夫婦が国体コースのほとりにあるパン屋さん「フォーチュンベーグル」に入ったところ、カーリング日本代表の目黒萌絵さんが食事をしていたそうである。
萌絵さんはどんころの代表である目黒さんの娘さん、そのうちにシーソラプチを一緒に下ってみたいものである。
自信の無い人は国体コースが終わったところから参加することになり、その中にはかみさんも混じっていた。
昨日のトラウマの瀬で私の座るシートが壊れてしまい、その状態でタンデムで国体コースを下るのは厳しそうなので、私がソロで漕ぐことにしたのだ。
漕ぐか止めるか迷っていたかみさんは、シートの破損と言うちょうど良い理由ができて喜んでいたし、できればソロで漕ぎたいと考えていた私にも、シートの破損は好都合だったのである。
途中から参加するメンバーは最初はレスキュー部隊となる。あまり頼りになりそうもない部隊なので、基本的にはセルフレスキューの覚悟をした方が良さそうだ。
まずは三段の瀬。
今日は下った後に右のエディに入ることが目標だった。
そのためには3段目の右岸から襲いかかる巨大な波に果敢に突っ込まなければならない。
ところが、一人乗りのカナディアンは三段の瀬の波の力に翻弄されて、右へ向かうどころか左にバウを振られる有様だ。
何とか沈しないで下り終え、意地でも右のエディに入ろうとしたが、本流から抜け出せないまま一気に流される。
見る見るうちに次の瀬が迫ってきてもう駄目かと観念したが、ギリギリで川岸に漕ぎ付ける事ができた。
続いて下ってきたkenjiさん夫婦の艇も、同じように本流から抜け出せずに一気に流されてきた。
三段の瀬直下で右のエディに入るのはなかなか難しいのである。
次はパチンコ岩。
先に下った人は皆、パチンコ岩の右を漕ぎ抜けて行った。
でも、ここで右へ行く奴は私にとってはチキン野郎なのである。男ならば左へ行かなければならないのだ。
前回はタンデムでこのルートに成功し、以前に一度ソロで漕いだ時も成功させている。でも、今日のこの水量ではちょっと自信がない。 ウジウジと考えていてもしょうがないので、覚悟を決めて瀬の中に突っ込む。
ポイントは、最初の波の大きな瀬をいかに早く左へ抜け出すかだ。
ところが相変わらずカヌーを思うように操作できない。最近はソロで漕ぐ機会が少ないので、タンデムでのパドリングに慣れてしまったせいなのだろうか。
左へ出るつもりなのに、バウが右へ振られてしまう。そのまま素直に右に進めば良かったのだが、なおも抵抗すべく左にクロス入れる。
その瞬間カヌーは大きく左に傾き、堪らずに水の中に転げ落ちた。
体は完全に水没しそのまま一気に流される。
「このままではパチンコ岩に衝突する!」
と思った瞬間に、体が岩にぶつかった気がした。
怖いのはそのまま岩に張り付いてしまうことだけれど、何とか無事にすり抜けたようだ。
それも狙っていた通りにパチンコ岩の左へルートである。
狙いと違っていたのは、水中に没した状態でそのルートを進んでいることだった。
それでもしっかりとパドルとカヌーは確保し続けていた。
パチンコ岩を回り込んだところでようやく水の上に浮かび上がることができた。
口を大きく開けて空気を吸い込もうとしたが、何故か肺の中に空気が入ってこない。
空しく口をパクパクさせるだけである。
以前にここで同じように流された時は、途中で川底に足が付いて止まることができたけれど、今日は足が付く気配も無い。
このままでは渡月橋の落ち込みで、再び水中に引きずり込まれることになる。
幸い、カヌーが元に戻っていたので、これにつかまったまま流れていけば、そんな事態は避けられそうだ。
僅かに肺に入ってくる空気を求めて、必死に口をパクパクさせ、カヌーに掴まったまま渡月橋の落ち込みへと入った。
するとその瞬間にカヌーが再び裏返しになり、しかもそれが私の上に被さってきたのである。
それと同時に体が水の中に引きずり込まれ、ヘルメットのヒモが首に食い込んできた。
必死になってカヌーを手がかりに浮かび上がった。
もしもこのカヌーが無かったら、しばらくの間、水の中でもがき続けることになっていただろう。
そのまま流され、上手く左岸のエディに入ることが出来て、何とか足場を見つけることが出来た。
それと同時に鼻の穴から大量の水が流れ出て、ようやくまともに空気を吸い込めるようになった。
その場所では身動きが取れないので、小さなベイラーで一生懸命カヌーの中の水をくみ出す。
そうしていると、今度はI田さんが流されてきた。
対岸の岩の上に立っていたかみさんがレスキューロープを投げ入れる。
「あっ、馬鹿っ!そんなところでレスキューしたら自分が岩の上から転がり落ちるぞ!」と思いながらも、私には声を出す力もない。
運良く?そのロープはI田さんに届かず。続いて回りのレスキュー女性部隊から次々とロープが投じられる。
後でhaneさんがこの時の様子を、「船の見送りの紙テープの様だった」と言っていたが、まさにその通りの風景だ。
紙テープは1本もI田さんに届くことはなく、皆に見送られて一人寂しく流れていったのである。
国体コースが終わったところで、C葉さん、haneさん、K鍋さん夫婦、S吉さんの奥さん、それにかみさんが加わり、ここからが例会本番のスタートである。
既に疲れきっていた私は、ここで終わっても良いような気分だった。
それでも、ここから先は噴水の瀬までのんびり下っていれば良いだけなので、後ろの方からゆっくりと下り始めた。
すると前の方でK鍋さん夫婦のファルトが沈。
「えっ?!も、もう沈!」
と驚いていたら、その横でもう1艇、赤いカヤックの底が見えていた。haneさんである。
頼りになるG藤さん、T津さんは昨日で帰ってしまい、今日はレスキュー体勢が手薄だなと感じていたが、今からこれではこの先が心配になってくる。
それからちょっと下って、再びK鍋さん艇が沈。
そしてhaneさんが倒木に激突。パドルだけが倒木に挟まり、haneさんは下流へと流される。
本人は岸に上がれたけれど、舟はそのまま流れていく。
その後は我が家のカヌーにhaneさんを乗せて、下流で回収された舟のところまで連れて行った。
スタートする時に、それぞれにサポート係が並走することに決めていたが、それでは沈した際のレスキューには何の役にもたたないことが分かってきた。
危ないような所では先に下って、適当なレスキューポイントで待機することにする。
何時もは何気なく下っている場所でも、初心者の目に戻って観察すれば危険が沢山潜んでいるのが見えてくる。
長く続く瀬の途中でレスキューポイントを見つけ、そこでロープを用意して待機する。
そうしていると、予想通りに遥か上流からhaneさんが流されてきた。
ここでしっかりとレスキューしないと、またかなりの距離を流されることになる。
流されてくるhaneさんに合図を送って、ロープを投げる準備をする。
自分も流されている時にこうしてレスキューしてくれる人の姿を見つけた時はとても心強く感じたものである。
距離も短く軽く投げれば十分に届く距離だ。
ゆっくりとロープを投げ込む。距離は十分に届いていた。しかしそのロープが落ちたのは、流れてくるhaneさんの上流側だったのである。
「あれ〜、やっちゃった〜」
これでは、レスキュー女性部隊を笑っていることはできない。
対岸にいたS木さんの投げたロープがかろうじてhaneさんに届いたが、ここでもまた舟を流してしまった。
小回りの利くカヤックが少ないと、レスキュー体勢を作るのもなかなか難しい。
そう言えば、今日はC葉さんの流れている姿を一度も見ていなかった。
昨日のペースならば既に5回以上は沈している筈なのである。
T津さんから、沈するのも無理はないと言われたカヤックに乗って、今日はまだ一回も沈していないのだ。
人間の限界なんて何処にあるのか分からないものである。
一方のhaneさん、昨日はクランクの瀬、トラウマの瀬と乗り越えてきたのに、今日は沈の回数が多いようだ。
そのhaneさんは、小さな瀬がある度に「これが噴水の瀬ですか?」と聞いてくる。
「あの〜、噴水の瀬はぜ〜んぜん違いますよ〜」
途中の川原で休憩。
上陸しようとしたら、そこから沢山の黒いアゲハチョウがひらひらと一斉に飛び立った。
K鍋さん艇がやや上流の大きなエディに入ったまま、なかなかこちらに来ようとしない。
何をしているのかと思ったら、思うようにカヌーが操作できずに、そのエディから出られないでいるようだ。
先月の天塩川例会では一人で楽しそうにファルトを乗り回していたK鍋夫、今日はタンデムで沈を繰り返し、おまけにこのエディではカヌーの向きさえ変えられない。
流れが複雑に巻いているエディの中では無理もないのだが、千歳川で二人で漕いでいる時に、前の奥さんに向かって「漕ぐな」と禁断の台詞を口ばしってしまったそうである。
まあ、夫婦カヌーでは誰でも一度は必ず通る道。
その後、別々の舟に乗るようになるのか、困難なタンデムの道を追求し続けるのかは、それぞれの家庭の事情によるのである。
次第に皆、川下りにも慣れてきたようだ。
C葉さん、haneさんは、波の高い場所を避けてチキンルートばかりを下っている。
これはつまり、流れの中で舟をコントロールできるようになった証拠でもある。
K鍋さんご夫婦は、そんな瀬の中では波のど真ん中を目指して下ってくる。ファルトでは一番楽しいところである。
ストリームアウトも、夫婦息の合ったパドリングでピタリと決まるようになってきた。
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