そうして下ってきた噴水の瀬で、幸せな時間は途切れてしまった。
何時もどおり瀬の手前右岸に上陸して、ほぼ全員で下見をする。
初めて下る場所ならばともかく、何故かこの噴水の瀬だけは、例会ごとに必ず下見をしてから下っている。
噴水の瀬への進入ルートはほぼ決まっていて、その後はほぼ真っ直ぐに下るだけで、水量によっては岩が顔を出している程度の違いしかない。
瀬の状況を見られる場所までは、とても滑り易くて鋭く尖った川底の岩の上を歩かなければならず、瀬を下るよりも、ここを歩く方が怪我をする確立が高そうな気がする。
そして、瀬の下見を終わった後は「凄いね〜、怖いね〜」と緊張しながら、自分の舟まで戻るだけなのである。
これならば、下見などしないで、前の人に続いて次々に下ってしまえば良いと思うのだけれど、ついつい下見をさせてしまうような魔力が、この噴水の瀬には秘められているのかもしれない。
会長夫妻が、この魔力を秘めた瀬を、皆の写真を撮るために真っ先に下ると言う。
念のために、F本さん一人がレスキューロープの用意をしているけれど、この勇気には恐れ入ってしまう。
そもそも会長夫妻は、タンデムでこの瀬をクリアしたことが無いとのこと。
以前にここで沈した時のことが奥さんのトラウマになり、会長が一人で下って奥さんだけがポーテージと言ったことも多かったようだ。
そんな二人にカメラを向けていると、見事に噴水の瀬を初クリアしてくれた。
実はこのお二人、前日が結婚記念日だったのである。
前夜、キャンプ地のどんころでそのことを知り、「それじゃあ明日は噴水の瀬で、結婚記念の豪快な沈でもしてもらって」と冗談を言っていたのだ。
そして一夜明け、「今日はどうしようかな〜」と珍しく悩んでいた奥さんが、結局タンデムで下ることに決めたのは、特別な思いがあったのかもしれない。
ギャラリーとしては、豪快な沈を披露してくれた方が嬉しかったのだけど、お二人にとっては良い記念になったのではと勝手に想像しているのである。
我が家は、噴水の瀬だけには苦手意識が全く無く、下見を終えた後はドキドキしてしまうのだけれど、何時もどおりに無事にクリア。
他のメンバーも全員が危なげなく、噴水の瀬を下り終える。
O橋さんがポツリと、「俺達も随分上手くなったよな〜」とつぶやいていた。
確かに、会長やO橋さん・私達夫婦は同じ年にこのクラブに入会して、つい数年前までは毎回のように他のメンバーのレスキューロープの世話になっていたのが、今はこうして余裕を持って下れるようになった。
うぬぼれでは無く、しみじみとした実感なのである。
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