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空知川

(国体コース〜山畔橋)

 カヌークラブの7月例会は、どんころ野外学校に泊まって土曜日にシーソラプチ川、日曜日に空知川(落合〜山畔)を下る。
 私は用事があって宿泊できないので、日曜日の空知川にだけ参加することにした。
 9時半の集合時間に間に合うように早朝に札幌を出発し、9時前に余裕を持って到着したのに、既に全員が着替え終わって準備万端の体制が整っていたのには驚いてしまった。
 以前のクラブの例会は、集合時間はただの目安みたいなもので遅れるのが当然だったのに、それがこの変わり様。
 かみさんが小声で「年寄りばかりになってきたから朝も早いのよね」と囁きかけてきたけれど、確かに我が家も朝早いのは全く苦にならないので、これは良い傾向である。
張り付き事件 着くと直ぐに、昨日のシーソラプチ川の川下り中に発生した事件について教えてもらった。
 前会長であるIさんが瀬の中で岩に張り付き、カナディアンがくの字に折れてしまったとのこと。皆でそれを引き剥がしたところ、折れたカナディアンは直ぐに復元したそうである。
 後で写真も見せてもらったけれど、カナディアン乗りにとって一番遭遇したくないシーンがそこに写っていた。
 アリーに乗っていた頃は、これだけを恐れながら毎回川を下っていたのだけれど、リジット艇であっても岩に張り付いてまともに水圧を受ければ同じことである。
 でも、その後でちゃんと復元するところがアリーとはやっぱり違うところだ。
 そんな、考えただけでゾッとする様な恐ろしい事件のことを、皆とっても嬉しそうに話している。
 ○さんなどは、皆が慌てて助けに駆けつける中、大喜びで「早くカメラ!カメラ!」と叫んでいたそうである。
 当クラブのメンバーはとても頼りになる人達ばかりで、心強いことこの上ない。

スタート前の集合写真 まずはスタート地点の美しい淵にカヌーを浮かべる。
 車でここまで来る途中、ずーっと「嫌だ、嫌だ、私は国体コースが終わった所から漕ぐことにする」と言い続けていたかみさんも、ようやく観念した様だ。
 もう何回もここを下っているくせに、往生際が悪いのは相変わらずである。
 確かに、他のメンバーは昨日もシーソラプチ川の最後にこの国体コースを下っているから良いけれど、しばらくぶりにカヌーに乗るのにいきなり国体コースと言うのはちょっと気の毒かもしれない。
 行く手には直ぐに三段の瀬が待ち構えている。今日は水量が少ないので瀬の落差も大きい。
 何時ものことながら瀬の直前までやってきて、その複雑に折り重なる激しい波の様子を目の当たりにすると、頭の中が真っ白になる。
 熟練してきたら、その折り重なった波の間に一瞬で下るルートを見極められるのかも知れないけれど、こちらはただ運を波に任せて突っ込むだけである。
 それでも無事に下り終えてホッと一息。

 
2段目で波に突っ込む   3段目の波を突き抜ける

 私の後から下ってくるのは、去年クラブに入会したばかりのK藤さんと、今年からカヤックを始めたばかりのKOさん。その二人が見事に三段の瀬をクリアしてしまう。
 ウィルダネスカヌークラブでは初心者に対して親切な技術指導などはあまりしていない。
ここで持ちこたえるKOさん ただ一緒に下るだけで、後は当人任せと言った雰囲気が強い気がする。
 それなのに短期間でこれだけ上達してしまうのは、お二人が川下りが本当に好きだからなのだろう。
 川が好きな人間が集まって一緒に遊ぶだけ、そんなクラブも良いものである。

 次はパチンコ岩の左を回りこんで、渡月橋の落ち込みは真ん中に頭を出した岩の右側から進入する。
 予定したとおりに無事に下れたけれど、細かな部分がどうも気に入らなかった。パチンコ岩を回り込むときは大きく膨らんでしまったし、渡月橋の下でも流れに押されて右岸の岩にぶつかってしまったのだ。
 どうして上手くいかないんだろうとしばらく悩んでいたけれど、この時の様子をS吉さんが連写モードで写してくれていたおかげで、その原因を突き止めることができた。
 私が流れに負けないように、一生懸命クロスドローを入れている時、かみさんは何もせずにのんびりと構えたまま。
 どうだとばかりに目の前に証拠を突きつけると、何時もはああだこうだと言い逃れをするかみさんも、「そ、そうかも知れないわね」と認めるしかなかったようだ。
 まあ、「私がこんなに一生懸命に漕いでいるのに、あなたは後ろで何もしてないのね!」と突っ込まれることもあるので、あまり正確に現場を捉えられるのも良し悪しである。

渡月橋落ち込み連続写真
かみさんがドローを入れるタイミングが少し遅い!

渡月橋落ち込み連続写真
その結果、こうなってしまう

 とにもかくにも下り終えてホッとしていると、前日に岩張り付き事件で皆を楽しませたI田前会長がフラフラと下ってきた。
 どう見ても何か起きそうな予感がする。
 案の定、岩で狭まった落ち込みにでかいカヌーで横向きに進入してきたものだから、バウとスターンが岩につかえて動けなくなってしまった。
 昨日の一点支持と違って今日は二点支持なので力が分散されている。とは言っても、その状態でカヌーの中に水が流れ込めば、またしてもくの字に折れてしまうだろう。
 何せ、無事に復元したといっても真ん中に折り目の付いているカナディアンなのである。
 残念、いや、幸いなことに何とかスターンが岩から外れて、後ろ向きのまま落ち込みを下ってしまった。
 それにしても何時もギャラリーの期待を裏切らないI田元会長である。

I田会長   I田会長
横向きに岩に挟まる   後ろ向きで落ち込みへ

 国体コースを過ぎた後、ゴールの山畔橋までの間では噴水の瀬以外には大した瀬もないと言ったイメージが強いけれど、毎回下るたびに「あれ?こんなに瀬があったっけ?」と感じてしまう。
 国体コースと噴水の瀬のイメージが強すぎるので、その他の瀬は殆ど記憶に残らないのかも知れない。
 瀬と言っても、一箇所だけ岩壁にまともにぶつかるトリッキーな流れがある以外は、意地悪な岩も無くて、楽しく下れる素直な瀬が続いている。
のんびりツーリング 心からリラックスしてそんな流れを漕ぎ下る。
 澄んだ水を通して見える川底の風景がカヌーの下を流れていく。
 川岸は夏を迎えて濃厚な緑色に染まり、ところどころで名も知らぬ野草が清楚な花を咲かせている。
 川の流れと一緒に幸せな時間も流れていくようだ。
 今日の参加者は11名。
 例会としてはちょっと寂しい人数だけれど、これくらいの方が下っている皆とその幸せな時間を共有できているような実感がある。
 参加者が20名を越すような例会なると、それぞれがバラバラに下るようになってしまい、それでいて団体行動も強いられるので、ゆったりとした川下りとは言えなくなってしまう。
 そんな時は、お祭りに参加しているような気分で川下りを楽しむことにしている。

 

 噴水の瀬が近づいてくると、かみさんが「一人で下れる?」と聞いてきた。
 また何時もの臆病虫が頭をもたげてきて、自分だけパスしようと考えているみたいだ。
 「下れる?」と聞かれても、一人の方が楽に下れるのは分かりきっているし、まともに相手するのも面倒なので「別に、どっちでも良いけど」と適当にあしらっておく。
 まずは全員で瀬の下見をするけれど、今日は水が少ないので嫌らしい岩が所々に顔を出していた。水が多い時にはその波のパワーにビビッてしまうし、どんな時でもここの下見をした後は口の中がカラカラに乾いてしまうくらいに緊張する。
 見れば見る程にびびってしまうだけなので、下見をサッサと切り上げてカヌーに戻る。
 沈しても良い様に、乗せていた荷物をかみさんに預けようとしたら、かみさんが「やっぱり下ろうかな・・・」と言いだした。
 「はいはい、分かりました」
 これまでに何回もここを下っているくせに、全く往生際の悪い奴である。
噴水の瀬 隣りではK藤さんが緊張した表情でカヤックに乗り込んでいた。
 聞いてみると、噴水の瀬には初チャレンジとのこと。そういえば去年の例会では、K藤さんは何の迷いもなくここをポーテージしていたのだ。
 思わず「ご愁傷様」と声をかけてしまった。
 確実に瀬の藻屑となることが分かっている人に向かって「頑張ってください」などと言った白々しい言葉は何の励ましにもならない。
 誰もが一度は通らなければならない道、いや、瀬なのである。
 人の心配より、自分の身を心配するほうが先である。
 緊張しながら落ち込みに突入。目前に迫る岩を必死に避ける。
 「あー、ぶつかる!」と、次の衝撃に備えて思わず身構えたけれど、カヌーはその岩の横をするりと通り抜けた。

 無事に下った達成感に浸っている余裕も無く、直ぐに岸に上がってカメラを構える。
 上手く落ち込みをクリアしたかに見えたNやま妻さんがバランスを崩して沈、ロールで起き上がろうとするもそのまま岩にぶつかってしまう。
岩に激突 去年のヌビナイ川例会ではロールに失敗して顔面に傷を負った女性もいたので、一瞬そのことが頭をよぎった。沈脱して浮かび上がってきた様子では大丈夫そうなのでホッとする。
 今日は人数が少ないので、レスキューにも手間取っているみたいだ。と言うか、レスキュー体制よりも撮影体制の方に力を入れすぎていたのかもしれない。
 体制が整うまで下るのをストップさせようと後ろを振り返ると、何とK藤さんが既に落ち込みの直前まで下ってきてしまっていた。
 沈するのはほぼ確実。でも今更止めようもない。
 こうなったら私は自分の役割に徹するだけだ。すかさずK藤さんに向けてカメラを構えた。
 そして目の前で、これ以上は無いと言うような豪快な沈をK藤さんは披露してくれたのである。
 次に下ってくるのはKOさん。今度はさすがに、レスキュー体制が整うまでしばらく待ってもらう。
 せっかく覚悟を決めたのに、そこで長い時間待たされるのも嫌なものだろう。同じ立場だった頃の自分を思い出した。
そして何時でも沈脱者を受け入れる準備が整ったところでゴーサインを送る。
 以前に自分達が下っていた時は、ベテランメンバーが瀬の手前で進入ポイントを指示してくれていたものである。
 今日の状況では私がその立場なのだけれど、撮影班としての役割のほうが大切である。
 進入ポイントを指示する代わりに、「は〜い、ここに向かって下ってきて下さ〜い」とばかりに、一番えぐいポイントにカメラを置きピンして待ち構える。
 そして見事に期待に応えてくれるKOさん。
 最近の例会では珍しい3連続沈脱シーンがこうして繰り広げられたのであった。

沈脱1   沈脱2   沈脱3
キャ〜ッ!   ウワ〜ァ!   グェッ!

 撮影を終えてカヌーに戻ると、沈脱一号となったNやま妻さんが無茶苦茶悔しがっていたけれど、後のお二人は底抜けに明るい笑顔を浮かべていた。
 余計なことは全て頭の中から消え去って、純粋に水と戯れられる。こんな沈を経験すると、ますます川下りの楽しさに嵌ってしまう事になるのだろう。

山畔橋が見える そこから先は、噴水の瀬での興奮をクールダウンしながらゴールの山畔橋をめざす。
 途中で、どちらに進んでも倒木が邪魔をしている分流があるけれど、水が少なければそれほど危険も無い。
 山畔橋の手前で急に雨が降り始めた。
 青空が見えているので直ぐに止む雨だけれど、雨に濡れてクールダウンするのはあまり楽しくない。
 そうして上陸地点に到着。
 再び広がり始めた青空と同じく、心の中も晴々としていた。
 空知川のこの区間を下り終えたときは、何時も同じような爽やかな気持ちになれる。
 スタートして直ぐの国体コースでの緊張、それを過ぎると楽しい瀬と穏やかな流れが交互に現れ、退屈することが無い。
 そして、噴水の瀬で頭の中を真っ白にした後はクールダウンしながらゴールへ。
 この絶妙な川のバランスが、そうさせてくれるのかもしれない。
 カナディアンで下るのにはとても楽しい空知川である。


2008年7月13日晴れ時々曇り一時雨
当日12:00 空知川水位(空知川幾寅観測所) 353.83m


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