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尻別川

(中野橋 〜 ラフトコースゴール)

 雪虫もどきが異常発生している暖かな秋、そろそろカヌーシーズンも終わりかなと思っていた時に、カヌー納めで尻別川に行きませんかとカヌークラブの掲示板に書き込みがあった。
 今年1年、すっかり川の魅力にはまってしまい、機会さえあれば常に川に出かけていたような気がする。
 もちろん今回も直ぐに参加を決めた。
 ただ、暖かな秋とは言っても既に11月である。川の水もかなり冷たくなっているだろう。
 秋になる前にドライスーツを買おうと思っていたけれど、予定していたモンベルのドライは既に品切れ状態で、購入は来春になってしまった。現在のセミドライでは、沈するとどうしても水が入ってきてしまう。
 クラブのメンバーで尻別川を下るのならば、区間は当然ラフトコースと言うことだろう。そこには「二股の瀬」の難所も待ち構えている。おまけに今回はかみさんが参加できないので、ソロで漕がなければならない。
 千歳川程度の流れなら逆にソロの方が楽しいのだけれど、大きな瀬のある川をソロで漕いだことがないのでちょっと不安だった。
 私以上に不安だったのがかみさんみたいで、「絶対に無理しないでね。」と送り出されれる。
 「もう子供じゃないんだから一人でも大丈夫だもん。」と強がりを言いながら家を出た。
 今回の参加者は言い出しっぺのI田さん、数日前に中国から戻ってきたばかりのF谷さん、いつもは奥さんとタンデムながら今回はソロで参加のT山さん、そして何時も笑顔のI山さんである。
 細かな雨がポツポツと落ちてくる生憎の空模様だけれど、気温は13度くらいで、今時期にしてはかなり暖かい方だ。
 スタート地点は中野橋。駐車場から河原へは少し高低差があるので、カヌーを降ろすのに苦労する。
 普通のカナディアンならばセンターヨークを肩に乗せて担げるのだが、アリーの場合はセンターヨークが無いので、頭で支えるしかないのだ。普段から首なんて鍛えていないので、これが結構大変だったりする。
 中野橋の上流を見ると、水が少なく岩がゴロゴロしていてとても下れるそうな様子には見えないが、そこから直ぐ下流では発電所の放水口から水が流れ込んでいるので水量は安定する。
 その放水口からの流れの中にカヌーを漕ぎ入れて、まずはソロでのパドリングの感触を確かめる。感が戻ってきたところでいよいよ川下りのスタートだ。
 気温は高いけれど、水はさすがに冷たい。絶対に沈はしたくない冷たさである

自転車で戻ってきました   ピース!
中野橋の下で   スタート直後、右側から放水口の水が流れ込む

 しばらくは岩が乱配列されたような区間が続く。水面に出ている岩は問題ないが、厄介なのはやっぱり隠れ岩だ。
 波の様子を見ていれば直ぐに発見できるが、たまに水面に何の変化も無いような隠れ岩もあったりする。もっともそんな岩は真っ平らな岩なので、乗り上げてもせいぜい底がつかえるくらいだ。
 ずーっと先の状況まで見極めながら下るルートを決めないと、途中で行き止まりになってしまう。
 今回は水量も少なめで岩も多く出ていたが、その分流れも緩いので岩を避けるのに苦労はしない。それに何と言ってもソロなので、自分の思うようにルートを決められる。
 もう一つのソロの利点は、隠れ岩に乗り上げたとしても簡単にそこから脱出できることだ。
 アリーをタンデムで乗る場合、真ん中が岩に乗り上げると前後の二人の重さで簡単にフレームが曲がってしまう。ソロの場合はそんな心配もないし、そもそも吃水が浅いので隠れ岩に乗り上げることも少なくなる。
 余裕が出てきたので、岩の後ろのエディに入る練習もやってみた。下手くそなので、入れたと思った時には既にかなり下流まで流されていたりする。
 小さなエディにでも、思い通りにピタッと入れるくらいにはなりたいものだ。そうしたらもっと楽に川を下れるようになるだろう。
 岩の乱配列区間の最後に、落差のある瀬が現れた。緊張しながら瀬に入る。何時もと違って直ぐ目の前に波がある感じだ。
 その波に合わせてバランスを保つ。と言うか、バランスをとる必要もないくらいアリーは安定している。ソロだと軽すぎて波に煽られないか心配していたが、逆に軽い方が安定するのかもしれない。
 そこで他のメンバーがサーフィンをやっている間、私はフェリーグライドの練習をする。上手い人を見ていると、たったひと漕ぎでスーッと流れを横切ってしまうような印象を受けるが、私の場合は必死にパドリングしてやっと対岸にたどり着けるような有様である。
 まだまだ練習が必要みたいだ。

羊蹄山に向かって   羊蹄山の姿
石がゴロゴロと顔を出している   落差の大きな瀬

 そこを過ぎるとしばらくは穏やかな流れが続いている。たまに小さな瀬が現れるが、もう緊張することもない。
 ちょっとした落ち込みになっている場所でまた皆がサーフィンを始める。
 見ているだけでは面白くないので私もチャレンジしてみたが、入り方が悪いと波に押されて直ぐに押し流される。そうすると、そのまま波の中でカヌーが横向きになってしまう。
 これが一番怖かったのだけれど、ここでもやっぱりカヌーは安定していた。
 そうと分かると安心してチャレンジすることができる。何回目かでようやく波の上でカヌーを静止させることができた。
 サーフィンをしながら頭上にパドルをあげて、クルクルとそれを回転させる。以前に見たカヌーのビデオでそんなシーンが印象に残っていた。最近はI山さんも時々そんなことをやっている。
 今がチャンスとばかりに、私もパドルを頭上に持ち上げクルクルと・・・。
 手を持ち帰られないので、4分の3回転しか回らない。
  カヌーを楽しむためには、バトントワリングの練習もしておいた方が良さそうだ。
 小さなエディを見つける度にエディキャッチの練習をする。クロスドローでエディに入る感覚がようやく分かってきた。
 「うん、これだ!」と満足したが、パドルをそのまま上流側に入れたままだったので、水圧でパドルがカヌーの下に押し込まれそうになり、一瞬ヒヤッとする。
 バランスを崩す以外にこんなことも沈の原因になりそうである。

瀬が迫ってくる   素直な瀬だ
サーフィンを楽しむ   岩を避けながらのんびり下る

 途中で休憩を取りながら下り続け、やがて見覚えのある場所が現れた。問題の「二股の瀬」である。
 尻別川のこの区間はラフトコースとも呼ばれていて、2年前のクラブの例会で一度だけ下ったことがある。
 その時は、この「二股の瀬」の手前で上陸して入念な下見をしたものだ。下見しているだけで緊張が高まり、口の中がカラカラに乾いてしまったのを覚えている。
二股の瀬 今回は皆、下見もせずにヒョイヒョイと下っていってしまう。
 私もその後に続いてゆっくりとカヌーを進めるが、視界に入ってきた「二股の瀬」の全貌は、「あれ?こんなものだったっけ?」の印象だった。
 私の頭の中には、そそり立つ岩に囲まれた狭い谷間で大波が荒れ狂う地獄のような恐ろしい光景が残っていたのに、目の前にあるのはごく普通の瀬だった。
 2年前に下った時よりも、瀬の入り口は岩が絡んでちょっとトリッキーな流れになっていたが、そこも難なく通過。
 後は素直な波の上を気持ちよく下っていくだけだ。
 子供の頃にやたら大きく見えていたものが、大人になってから見ると意外に小さなものだったりする。そんな感覚だろうか。
 その先も、しばらく楽しい流れが続く。
 「オッ!」と思うくらいに波が高くなっている場所もあったが、そんな波の中でもやっぱりアリーは安定していた。

 やがて流れも次第に穏やかになり、これまでの余韻を楽しみながらのんびりとゴールを目指す。
 羊蹄山にかかっていた雲がいつの間にかとれて、雪に覆われた山頂部分が姿を現した。
 沈もしなかったし、岩にも乗り上げなかったし、これだけで下り終わった後の満足感が全然違う。一度でもトラブルがあると、素直に「あ〜楽しかった」とは言えないのである。
 何となく、去年よりはカヌーが上手くなったような気もする。
 今年一年の総決算として本当に満足できる楽しい川下りだった。
 しかし、家に帰ると全く満足していない様子のかみさんが待っていた。
 タンデムでの総決算をするため、雪が積もる前にまた何処かの川へ行くことになりそうだ。

2005.11.3

川下り当日の尻別川の水位
尻別川喜茂別観測所  252.78m
尻別川倶知安観測所  167.31m



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